ほたる祭りの夜2

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 美弥子はしばらく美鱒町の素晴らしさを雄弁に語っていた。堂宮は、熱心な美弥子の話を横で聞きながらポークステーキとライスを口に運んだ。 「私の後輩、怜奈(れな)っていうんだけど、いま町おこしの若者代表みたいになっちゃってて、とにかく美鱒にきてきてってしょっちゅうラインがくるのよ」 「で、その町おこしの一環としてほたる祭りがあるわけね?」堂宮が尋ねた。 「そういうこと。じつは私、去年のほたる祭りにも参加したんだ。東京にもまだ自然のほたるがいるんだってびっくりしたんだけど、そんなことは抜きにしても本当に素晴らしい光景なんだから!」美弥子はまくしたてた。 「うん、俺が小さいころに見たほたるも、とても幻想的だったよ。今でもはっきりと憶えてるもん」 「へー、そうなんだ。……堂宮君も自然のほたるを見たことがあるんだね。で、そのほたる祭りなんだけど、来週の土日なの。いきなりだけど堂宮君空いてるよね?」  美弥子は、空いていて当然とでも言いたげな口調だったが、実際、堂宮の予定は空いていた。どうせ暇だから、一人で渋谷にでも出かけて、夜になったら大学の後輩と近所で一杯やろうかと軽く考えていた程度だ。 「うーん、まあそうだね。行けなくはないよ」 「よし、決まった! ほたる祭りは来週の土曜日の夜ね。私はその日、玲菜の家に泊まるわ。で、堂宮君は玲菜の実家が所有する古民家に泊まれるはずだから、一泊二日の素敵な旅を期待してて」  それだけ言うと美弥子は再び仕事に関する雑談を続けた。堂宮は、ほたるというキーワードが蘇生(そせい)させた美名子の想い出をなんとなく頭にめぐらせながら、残ったライスをかきこみ、続いて水を飲みほした。
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