ほたる祭りの夜3

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ほたる祭りの夜3

 堂宮はその憂鬱(ゆううつ)な気分と怒りをどこにぶつけようかとしばし思案していた。木曜日の夜、美弥子からようやく、ほたる祭りに関する詳細がラインで送られてきた。  それによると待ち合わせ場所は北多摩鉄道の終点、美鱒口駅の改札に夕方5時ということだった。現地集合には少し驚いたが、気楽に電車に揺られるのも悪くない、とすぐに納得した。  思えば、東京で暮らし始めて5年以上が経つが、東京の西側、とくに吉祥寺よりも西側にはほとんど行った覚えがない。吉祥寺はすでに23区ではないが、荻窪の隣街でもあるし、日本でも指折りの人気の街だ。  上京した直後は最寄り駅から気軽に行き来できる吉祥寺は馴染みの街になった。それでも吉祥寺の隣駅、三鷹まで遊びに行こうとはなぜか一度も考えたことがなかった。  ここでふと堂宮は疑問に思った。今日は7月7日七夕の日である。そんな日にのんきにほたる祭りに出かけ、一泊するということは、美弥子には彼氏がいないのだろうか?   美弥子ほどのルックスならば、男たちは放ってはおかないだろうし、社内にも何人か美弥子を落としたいと画策している男性社員がいると聞いたことがある。いずれにしても七夕の日の土曜日に、大学の後輩の家に泊まりに行くというのは少し不自然だな、と感じた。  JR中央線の下りは新宿を過ぎるとさほど高いビルもなく、典型的な住宅街になる。堂宮の最寄り駅 阿佐ヶ谷は、中央線の電車は土日は停車しない。彼は並走する東西線に乗り、荻窪まで行き、そこで中央線の高尾山行の快速に乗り換えた。  さらに立川で青梅線に乗り換えた直後に堂宮の憂鬱は始まった。それは美弥子から届いたLINEに起因していた。
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