ほたる祭りの夜1

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ほたる祭りの夜1

 まだ午前7時過ぎだというのに、照りつける太陽は路面に容赦ない光と熱を照射していた。  額と首筋を流れる汗を拭いながら堂宮(どうみや)(りゅう)()はつくづく都会に暮らす息苦しさに(あえ)いでいた。  地方都市出身の彼にとって、東京という都会暮らしには受け入れがたい事実が3つあった。まずは、まるでひとびとを無造作に呑み込み、むりやり撹拌(かくはん)する地獄の大釜のような満員電車。堂宮は、朝がくるたびにこの大釜に放り込まれ、不快な閉塞空間のなかでなすがままになる自分を嘲笑していた。  彼が生まれ育った街でもラッシュ時は確かに混雑していたし、座れることは稀だった。ただこの大都会の通勤ラッシュは、まったく想定外のすさまじいものだった。おもえば、東京都を中心とした通勤圏、埼玉、千葉、神奈川だけで日本の総人口の約3割が密集しているのだ。それだけ人口が密集した地帯で、一斉(いっせい)にひとびとが大移動するわけであるから、それはまさに混沌以外のなにものでもない。
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