闇夜の徘徊者

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闇夜の徘徊者

「ねえ、私が帰ってくるまで、そのオチ絶対に云わないでね」  浦和みゆきはそう云うと用を足すために立ち上がった。 「了解。でも早くオチを披露して、みんなで大爆笑したいから、みゆき、早く帰ってきてよね」高校時代の同級生、麻衣が満面の笑みを浮かべながら、そう云った。  みゆきは8人用の深緑のテントから外に飛び出すと林間キャンプサイトに併設されている公衆トイレに向かった。時間は午後10時を少しまわったところである。同じサイトでテントを張る周囲のグループから、笑い声が漏れてくる。若い男女がおのおののテントで恒例の怪談大会やトランプに興じているのだろう。自然のなかの弛緩した雰囲気が、みゆきの心を和ませる。  ここ「みしばエコロジーキャンプ場」の第三区域は、持ち込みテント専用の林間キャンプサイトである。キャンプ場がある三柴山は、東京都青梅市山崎町と美鱒町東端のほぼ境界上にある。  キャンプサイトはほかにも第一区域と第二区域がある。家族向けの第一区画にはロッジ・バンガローがあり、トイレ、寝具、キッチン、エアコンが装備されている。常設テントが並ぶ第二区域は学生や若者たちのキャンプサイトとして人気を博している。  この春、大学に入学したばかりのみゆきは高校時代の気の合う学友3人とともに、ここにやってきた。本当は一番の親友である怜奈も連れてきたかったのだが、彼女は父親の大反対にあい、ついにここにやってくることは叶わなかった。
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