663人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
あるいは、案件が良好に進捗していたにも関わらず、急きょ進捗が鈍る場合は、もっと最悪だ。多くの場合、投資に対する効果が不十分であることから、案件の稟議申請は顧客の部門長、ないしは役員会でストップがかかる。そうなると横山の怒りは、頂点に達することになる。
機嫌が悪いとなんらかのものが飛んでくることもある。慌てふためいた部員たちは横山の怒りを収めるために、とっさにできもしないことをコミットさせられることになる。
「今日中に、稟議を止めている部門長にアポイントメントをとって、原因を探ったうえで、土下座してでも稟議をまわしてもらいます!」このような根性論は、元来あまり意味がないのだが、横山はこのような体育会系的アクションをよしとする傾向が顕著だった。
自称、学生時代はラグビー界のプリンスだったと豪語する横山は、このような不毛な気合いを理路整然としたロジカルシンキングよりも尊ぶ気風をもっていた。ともするとそれは横山の戦略かもしれないが、とにかく横山は怒り狂う「アングリー・ヨコヤマ」を巧みにプロデュースしていた。
部員たちは、意外にも横山を陰ながら尊敬していた。それは横山が仕組んだ人心掌握術の結果かもしれない。営業会議では鬼の形相だった横山は、夜の飲み会では気前がよく、また冗談を連発する男だった。
こういったアメとムチを用いて、ある意味、狡猾な彼の洗脳は功を奏していた。
入社して5年が経過した堂宮は、つねになにかに追いかけられていた。照りつける太陽に辟易しながら、堂宮は混雑した最寄駅へと足を踏み入れた。
最初のコメントを投稿しよう!