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一呼吸おいて、美弥子は静かに語った。
「私が他人から言われて、一番嫌な言葉は天真爛漫とか、ミス好感度とかなんだよね。ほんとう気持ち悪いよ。だって仕事してるときはさー、仕事柄ひとに好かれようと努力するよ。明るく元気にね。社内でもお客に対しても。でも24時間それをやれっていわれても当然無理なわけだし、そんなことしてたら、人格が破たんしちゃうよ」
この言葉は堂宮には意外だった。美弥子の明るい性格は、決して作られたキャラではないと信じ切っていたからだ。
「えっ、中野それは驚いたな。天真爛漫とかって最高の褒め言葉でしょ? それが苦痛だったりするわけ?」
「気持ち悪いよ! こっちも生身の人間なんだから、そりゃー腹黒い自分も同居してるっしょ。むしろ堂宮君の方がピュアにいい人だよ……」
今日の美弥子は、意外な言葉ばかりが飛び出てくる。堂宮は、どう返していいかもよく分からず、言葉に詰まってしまった。
「はははは! なによ、ピュアにいい人ってそんなに意外な言葉だった?」
美弥子は満面の笑みを浮かべながら、堂宮の顔にその美しい容貌を近づける。
「からかうなって中野。俺はたんなるうだつの上がらない不器用人間だよ」
堂宮はそう言いつつ平静を装った。
「いや、堂宮君、これは私の本音よ。君は本当にナイスガイだと思うよ。自分を偽ることもないし、悲しいときはちゃんと悲しそうな顔するしさ」
「ただの悲壮感ただよう男だよ、俺は。まあ、世間知らずだから確かにビュアかもしれないけどね」
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