ほたる祭りの夜3

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 電車はやがて青梅線の終点駅のひとつ手前、東青梅駅に到着した。ナップサックを右肩にかけ、東青梅駅と直結した北多摩線のホームへと急ぐ。今夜のほたる祭りが目当てだろうか、2組のカップルと複数の家族連れも北多摩線のホームに向かって歩いている。  北多摩鉄道は、東京都と大手私鉄会社が共同運営している第三セクターである。停車駅は全部で4駅しかない。東青梅から北に向かい終着駅は美鱒町の東端に位置する美鱒口駅である。  単線で本数もさほど多くはないが、周辺住民の貴重な足になっている。思ったより空いている車内に乗り込んだ堂宮は、座席ではなく、扉の横のスペースに立ち、身体をおさめた。  別に疲れているわけでもなく、彼は単純に車外の風景を楽しみたかったのだ。普段の都会生活のなかの見慣れた風景とは隔絶した多摩の自然をぼんやりと眺めていたかったのだ。しばらくすると電車はゆっくりと進み始めた。  車外の風景はひとつ目の停車駅 北青梅を過ぎたころから少しずつ変化していく。  東京都の森林面積は意外なことに4割もある。その森林面積の約7割は多摩西部に集中している。豊かな緑をたたえた山の風景は人々の心を癒すだけでなく、加工された木材を提供し、また自然災害に対する防止の役目も担っている。その多くは戦後に造林された人工林である。森林は多摩川、秋川、浅川流域に集中し、東京都の森林面積の残り3割は遠く離れた伊豆諸島にある。
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