ほたる祭りの夜4

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 時計が8時に近づくと辺りは真っ暗になった。今まで騒いでいた人たちも実行委員会のアナウンスに従い静かになった。小さな子供たちはまだ騒いでいたが、やがてそれも止んだ。  実行委員会が本営に()いていた電燈を全て消し、「静かにほたるたちの戯たわむれに集中しましょう」と静かにマイクでアナウンスした。  自然のほたるたちの幻想的なダンスが始まった。  明滅する淡い緑色の光が宙を舞う。それは遊泳する宇宙衛星のようでもあり、徘徊する人魂のようでもあった。  それはつねに人々に生命の儚はかなさを連想させる。まるでこの世を去った生けるものの魂が、この世に名残なごりを惜しんで最後の別れを告げているかのような錯覚を人々の心にもたらす。  それもすべてほたるの儚い命に誘発されてのことかもしれない。  堂宮はその幻想的な情景に見入った。
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