幕間2 144の話

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幕間2 144の話

 和はたまに、やけに生でしたがる。  まぁ病気はないだろうけれど、後始末も大変だ。よく知らなかったけれど、腹を壊す原因にもなるらしい。  でも、俺は自分で和とするときのためのゴムを買ってはいなかった。何というか、自分で買うのはそれが当たり前だと認めるようで、気が進まなかったのだ。 「……おい、ゴムしろって」  和は空の箱を振ってみせる。 「もうないよ」  だから、和がないと言ってくればおしまいだった。途中でやめて、ゴムを買ってくるなんてできるわけがない。  ゴムがない、とわかるのは大抵散々体をほぐされて、もう入れるだけになったときだ。そんなぐずぐずの状態では、どうしようもなかった。  話している間にも、和は猛ったものの先端を押しつけてくる。 「おい、和……っ」  柔らかくなった場所が、押しつけられた先端を飲み込もうとするのがわかる。 「ゴムがないなら出すときは外に……っん、や」  そのまま容赦なく、挿入された。まだ開ききっていない場所を、奥まで突き上げられる。 「だめだ……っ、て、やっ」  揺さぶられて声がおかしなトーンになる。  こうなったらどうなるかはわかっている。既にどろどろにとかされた状態で、冷静な判断なんてできるわけがない。  それでも俺は、何とか抵抗しようとした。 「や……っ、出すな、って」  ゆっくりと深く何度も突き上げられ、息が上がっていく。一番奥まで入れられたまま胸の先をいじられて、俺はつい、ぎゅうと奥に入ったものを締め付けてしまう。  このままじゃだめだ、と思うのに息が上がっていく。 「だ…めっ、んんっ」  俺は何とか深く息をして、快楽を逃がそうとする。  でも、突き上げられてびくんと体が震える。頭の中が快楽だけで塗りつぶされていく。擦り上げられ、奥を突かれる。 「やだ……っ、あっ」  このままだといってしまう。そして中で出される。わかっているから抵抗したいのに、ずるずると体は快楽に抗えない。  激しく突き上げられたかと思えば浅く揺らされ、嬌声がこらえきれなくなる。悲鳴のような声が漏れた。 「あ…んっ、ああ」  どろどろに溶けた体を何度も突き上げられる。  そんなときに耳元で「中で出してもいいよね?」と聞かれたら、俺にはもう頷く以外の方法なんてなかった。 「ああ……っ」  和のものが俺の中でどくりと脈打つ。熱いもので奥を濡らされる。俺はぐったりと脱力して、布団に倒れ込んだ。  ・  中で出されてそのままで寝ることなんてできなかったので、俺はすぐに風呂に入った。やってあげようか、という和の声を無視して、隅々まできれいに洗った。  足の間を白いものが伝い落ちていくのを、シャワーで流す。合意した結果なのだから仕方がないこととはいえ、恥ずかしいし抵抗はある。 「お前、なんで中で出したがるんだよ」  髪を拭いながら俺は、半分既に寝かかっている和をはたいた。 「なんか……俺のもの、って感じがするから」 「いい迷惑だ」  和は小さい頃から物欲がなくて、俺のお古でなにひとつ文句を言ったことがなかった。物欲だけじゃない。何がしたいとか、そういうこともほとんど言わなかった。  そのしっぺ返しを受けているかのようだ。今の和にはしたいこと、やりたいことばかりに見える。 「今度アマゾンでダース買いしてやる」  正直に言えば、俺はコンドームを買ってくることに少し抵抗がある。誰に見とがめられたわけでもないのに、それを和と使うのが恥ずかしいのだ。でも、通販サイトなら何とかなるだろう。 「ダースって、何個?」 「十二だよ。十二箱」 「一箱何個くらい入ってんだろ……十二個だ。ってことは……」  和はさっきゴミ箱に投げ捨てた空き箱を手にしている。 「144」  俺はつい、反射的に答えてしまう。  和は神妙な顔をしていた。だから、俺はかけ算を間違えたのかと思った。 「兄さんがそんなにしたいなら頑張るけど」  真面目な口調で和は口にする。 「いや、ちが、そんな使わなくていいんだよ! なくならないようにってことだ!」 「だからたくさん使うってことだよね?」 「念のためだ! 別に腐らないんだからいいだろ」 「これ使用期限あるよ」  箱に書かれた日時を見せながら和は言う。しまった、と思ったがそこに書かれているのはだいぶ先の日付だった。 「……五年後じゃねぇかよ」  さすがに五年あれば、百四十四個くらいは使うだろう。何も不思議じゃない。週一回でも途中で足りなくなる。勝った、と思った。 「五年もありゃそのくらいするだろ、普通に」  箱をもう一度ゴミ箱に投げて、和は布団に顔を落とした。何だかやけに嬉しそうな顔をしている。 「ううん」 「だから生ですんのはなしな」 「うーん、じゃあ百四十四個買って、なくなったらで」 「やっぱ買いすぎな気がしてきた……」  それこそ母が突然来て、ダースで置いてあるコンドームの箱を見たら何を思うだろう。さすがに二人で使っているとは思わないだろうけれど、将来を不安に思われることは確かだろう。  和はそのまま静かになった。寝てしまったのかもしれない。俺もいい加減に眠い。明日も学校だ。 「電気消すぞ」  相変わらず部屋は狭く、和は俺のベッドの隣りに布団を引いて寝ている。お互い家を出る時間が違うこともあるし、やっぱりベッドで二人寝るのは狭いからだ。  でも今日は、俺はベッドに登るのがやけに面倒に感じられて、そのまま和の布団に横たわる。  間近に和の顔があって、薄暗い中でもまだ少しだけ笑っているのが見て取れた。何がそんなに嬉しいのだろう。  俺が和の顔を見ていると、彼は俺の耳に顔を寄せて、小さな声で言った。 「五年後もたくさんしよ、普通に」 「……普通かどうかは知らねぇけど」  俺は何となく納得いかないような、釈然としないような気分になる。  まぁでも今の和が、欲しいものや、やりたいことや、未来のことを思い描けているならいいんだろう。無理やり自分をそう納得させた。  和の方に顔を寄せて目をつむる。俺だって未来のことは何もわからない。でも当然に五年後も和とはきっと一緒にいるだろう。当たり前のようにそう思っている。  ――俺は五年後には、何をしてるのだろう。  考えているうち、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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