短編

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短編

 僕は今、とてつもないくらい深刻な状況に陥ってる。  彼女、天宮奈緒(あまみやなお)を遅くならないうちに起こして帰るようにと言われ、二つ返事で了承をしたはいいけど、まずい。非常にまずい。  ここに来て女性というか異性の肌に触れたことが一切ない僕は冷や汗をかきながら寝ている彼女を起こそうとしている。  亜麻色の見惚れるほど綺麗な髪に加え、両耳に付けている銀のピアスがトレードマークな小悪魔系ギャルな天宮奈緒。  そんなぐっすりと眠っているように見える彼女を起こそうと十六時三十分あたりから呼びかけているがピクリとも反応がない。  というか、むしろ彼女は僕に起こせと言わんばかりにこちらに顔を向け、清々しいほどにぐっすり寝てるからこのまま置いておくのもありなのかもしれない。  けど、今現在十七時前。  部活に行っている先輩や後輩、同輩も部活で使った用具の片付けを済ませて矢継ぎ早に校門をくぐって帰路についてる。  つまりはどういうことなのかというと、下校時間だということが僕にもわかる。  そんなこともあって彼女に指一本触れることなく、かれこれ数十分前から呼びかけてる。  彼女の肩なんかを触ってるところをたまたまなにかを取りに戻ってきた誰かに見られでもしたら、セクハラだ! とかって言われてしまいそうだし、何よりセクハラだ!って言われなくても恥ずかしくて触れない。  起こそうと思って呼びかけてるけど、二人っきりだから内心めちゃくちゃドキドキしてるし顔が熱い。  そんなこともあって、彼女に僕は顔が赤くなっているところを見られたくないという気持ちが少しあって起きないでとも思ってる。  すると、いつから起きていたのか、その突っ伏している状態でいつものようにいじらしくニヒルな笑みを浮かべながら訪ねてきた。 「……ねぇ陽太。どうしてなにもしないの?」 「そりゃ……僕の好きな人なんだから……」  自分でもわかるくらい最後の方は口籠るくらいごにょごにょと喋って、自分で言って自分が余計に恥ずかしくなってるなんてほんと本末転倒だ。  その恥ずかしさを拭うように声を出したが、彼女にクスッと笑われた気がした。 「……で、天宮さんはいつから起きてたの?」 「いつからだろうね〜……あ、じゃあいつから起きてたか当てたら罰ゲームを帳消しにしたげるけどどうする?」 「帳消しになるっていうならやりたいけど、デメリットしかない気がするんだけど……僕の気のせいなのかな」 「気のせいだよ。何? 陽太はあたしからの気持ちのこもったご褒美……欲しくないの?」  また僕をいじろうと思い至ったのか、今度は甘えた声で言ってきた。 「……欲しくないなんて言ってない」 「ふふっ……そんないじけなくてもわかってるってば。相変わらずよーたってかっわいい反応してくれちゃうんだから」  全てこうなることを予想してやってるんだから、改めて本当に小悪魔な女の子だと思い知らされる。 「ご褒美なにがいいだろ……。陽太はあたしになにをしてほしい?」 「 か、顔! 近いってば! ……絶対、答えれないのわかってて言ってる でしょ」  天宮さんがどういう人かを忘れて考えていると、気付かない間にほくそ笑みながらもうちょっとでキスをしてしまいそうな距離までグッと顔を近づけてきた。 「さあどうだろうね?」  小悪魔め……。 「そういえばさ、陽太。さっきから顔赤いけど何考えてたの?」 「あ、天宮さんのことなんて考えてないよ!」 「へぇ〜? ……そういうことだったんだ」 「……はっ!! ち、ちちちがう!」 「ま、そういうことにしといてあげる」 「……帰る!!」 「え〜……それじゃあ意味ないじゃん。待ってよよーた」  約一年前、入学当初から隣の席で進級して二年になった今の今までもクラスは同じだし、必ず隣の席に座っている天宮さん。  一年の一学期二学期は、学校で隣の席ということもあって学校で話す程度の関係だったけど、三学期が始まってから一二週間が経ったある日から外でもよく会うようになり、連絡先も交換して遊ぶようになった。  もちろん、今も現在進行形で何か天宮さんの方から僕に用があったら連絡が入ってる。  天宮さんの方から連絡があっても僕から天宮さんにってことはこの1年間で一回か二回程度。  今、携帯に女子の連絡先があるのは天宮さんだけだから恥ずかしくて本当に用事がある時以外は滅多にしない。  それは何故か?  単純明快な話で、天宮さんのことがす、好きだからだ。  現に今も変に意識してる。  今もずっと心臓ばくばくだし、この気持ちを好きな相手に悟られたくないというのもある。  それに僕のことをよーたって呼ぶのは数少ない。  姉ちゃんと妹がよーたって呼ぶくらいだ。  その他は、まあ名字呼びだ。天宮さん以上に仲良い人もいないっていうのもあるけど……。  じゃあ僕はなんで天宮さんのことを名前で呼ばないのか。  それは至って単純。 『恥ずかしい』からだ。  もちろん、彼女のことを名前で呼びたいっていうのもあるけど、なんでか謎の抵抗があって呼べない。  それに全てにおいて地の底な僕が急に天宮さんのことを奈緒! って呼んだ時にはああそういうことなんだなと周りに思われては天宮さんに悪い。  まあ思われることなんて万に一つも億に一つもないんだけど……。  なんたって登校時以外はなんでかはわからないけど、ほぼほぼ天宮さんが僕の側に居てくれる。  そんなことを考えながら鞄を持って教室を出ようとすると、僕と同じように天宮さんが僕の後ろにピッタリついてきた。 「どこまでついてくんのさ」 「駐輪場まで?」 「その?っていうのはなに?」 「だって陽太付いてかないと逃げるでしょ?」 「ヨクワカッテラッシャル」  天宮さんから逃げるために離れようとするが、逃げることが出来ずにぴったりとついてくる。  その上、図星を突かれる。 「……それにまだよーたと一緒にいたいもん……」 「なに?」 「なーんにもっ! それにまだ前の罰ゲーム続いてるしねっ」 「罰ゲームって一週間自転車で送り迎えするってやつ?」 「そ。約束でしょ?」  ……そういえばそんなこともあった。  確かテストの総合点で負けた方が送り迎えするっていう。もちろん謎の罰ゲーム付きで。  自信満々だった僕は安易に受けたけど一点! たった一点の差で負けてしまった。  せっかく猛勉強して勝てると思ったのにだ。  というか、むしろ十点とか大幅に点差つけられてたらすごいショック受けることもなかっただろうけど、一点差だからなぁ……。  その罰ゲームを今週の月曜日からさっき言った罰ゲームが執行されて送迎してるわけだけども、変に思われてないだろうか……。  何度か寝起きの髪型を見られて笑われたりもしたけど……。 「そういえば、陽太」 「なに?」 「夏休みっていつからだっけ?」 「確か再来週とかじゃなかったかな。それがどうしたの?」 「ん〜……今年も陽太にお願いすることになると思うから。去年は無理だったけど、今度は前もって言っとこうって」 「まああれは急だったから流石にね……。行きたかったのは山々だけど」 「ふぅ〜ん。じゃあそういうことにしとこっかな」  ◇ 「涼し~!! ほらほらもっともっと!」  再び鬼畜天宮さん降臨。  自転車を校内の駐輪場から出して後ろに天宮さんを乗せ始めてから数分。  乗り出してからというもの後ろに乗ってる天宮さんに肩をバシバシ叩かれながら坂道を下ってる。  と言っても、ちゃんと涼しいだろうと思うギリギリの速度でブレーキをかけながら下ってる。ブレーキをかけなかったら一大事なんだから……。  ………………  …………  ……はっ!  こんなところを見られたら僕と天宮さんが付き合ってるみたいじゃないか……。 「ねぇ……耳赤くなってるんだけど何考えてんの?」 「ひやっ……! な、ななななにやってんの! 危ないじゃんか!」  「あははは……。あー笑った。あいかわらず耳弱いんだね」 「天宮さん……!!」  天宮さんの声が聞こえたと思ったら、悪戯しようとして僕の耳を触れた。  さわさわっとくすぐるように耳たぶを触られた後、ふぅ~と変に生暖かい息が耳に当たって一瞬ビビッとつい反応してしまったが、実行犯である天宮さんは腹を抱えるように笑った。  これが僕と天宮さんの日常なんだけど、いつになっても慣れない……。 「ねぇ陽太」 「……」 「ねぇねぇねぇ」 「怖いってなに?! 天宮さんついに病んだ?!」 「そんなんじゃないもんね〜だっ……!」 「もんって言ったってポイント上がんないよ……」 「ちぇっ……」  それよりもだ! もんっていう反則的な可愛さな言葉より大事なことを忘れてる!!  自転車を漕ぎ出してから天宮さんの豊満なお胸がずっと当たってるんだから心臓がすごいことなってるよ! 「……よーちゃんのバカ」 「なんて?! 風で聞こえない!」 「なんでもない!」  難聴難聴なんてどこかで叩かれそうな気がするけどマジと書いて本気でスピード出てるってのもあって風邪を切ってるから運悪く聞こえなかった。 「そーいえばよーたの誕生日いつだったっけ!」 「僕の誕生日?! 僕の誕生日は十二月上旬だけど?!」 「うへへへ~。ありがと~!」 「ちょっ……! 動かないで! 危ない! 抱きつくならずっとそうしてて!」 「あ~い!」  変なところは子供のままな天宮さん。  喜ぶ時はとことん喜ぶからよくわかんないんだよね……感情の起伏が。  そんな天宮さんが大好きだから良いんだけどボヨンボヨンと胸が背中にあたって変に意識しちゃう……。  ◇ 「はぁ……はぁ……つがれだ……」 「おつかれっ!」 「み、水……」 「ちょっとまってて! すぐに用意して来るから玄関で待ってて!」  ギリギリの速度で自転車をこぐこと約十分。  やっと思いで天宮さんの家に着いて二人して降りると一気に疲れがどっとかさなって息も少し過呼吸気味になる。  少し息を整え、天宮さんに水貰えないかな? と安直に言ったら天宮さんのうちの玄関まで案内してくれた。  玄関に自分のカバンを置いてそそくさとリビングへ水を入れに行ってくれた。  そんなことを考えていると、玄関が開いて見慣れた女の子が入ってきた。 「ちょっと、そこ通してよ。通れないじゃない」 「あ、ごめん()()」 「あたしのことはお姉ちゃんみたいに天宮さんって呼びなさいよ! なんで私のことは名前呼びなの?!」  塾の帰りだろうか、天宮さんの妹である莉緒が帰ってきた。  いつから彼女と話すようになったかは記憶が定かじゃないから断定はできないけど、いつのまにか妹から妹ちゃん。莉緒ちゃん。莉緒と言う順番で少しずつ呼び方を変えたのは覚えてる。如何して変わっていったかは知らないというか覚えてない。 「あ、そっか。まだ戻ってなかったんだった」 「まだ誰か帰って来てないの?」 「さあ?  お姉ちゃんが来たから厄介者はご退場します~」 「莉緒!」 「まあまあ天宮さん……っとと、ありがと。水」 「ママが晩御飯多く作り過ぎちゃったから食べてく? って言ってたんだけどどうする?」 「ん~……流石に母さんに悪いから今日はやめとくよ。誘ってくれてありがとね」  ……どういうことか、外で会うようになったら二週間に二、三回晩御飯に呼ばれるようになったりしてて多分、天宮さんと父さん、妹、姉ちゃんの三人は仲良しだし、多分親同士も仲良いと思う。まあ嫌な予感というか不安しか残らないけど、落ち着け……。 「あら、陽太くんじゃない!! 来てたなら早く言ってよ! 来る前に化粧したのに!」 「……ど、ども。ご無沙汰してます」 「えぇ~……里奈って呼んでってこの間言ったじゃないの! 晩御飯余分にに作っちゃって寝泊まりもしてくって良輔さんに連絡したばっかりなのに……」 「あんのバカ親父が……。頼むから勝手に返事しないでくれ……」  二年になってから天宮さんの家によくお邪魔するようになって、なんでかわからないけど親父とおばさんが連絡先を交換しているのか知らないけど、よく勝手に返事をされてる。 「奈緒ちゃんの陽太くんのために作った晩御飯嫌だっていうの? 里奈泣いちゃうわ……しくしく」 「ママってば! 言わないって約束だったじゃない!」 「いいじゃないの。このままだったら帰っちゃうところだったわよ? 陽太くん」  天宮さんが晩御飯作った……? いつから……? もしや…… 「いえ、帰りません。晩御飯いただきます」 「さっきまで「母さんに悪いから今日はやめとくよ」ってダサく言ってたの誰なのよ……」 「あなたもご飯よ莉緒」 「え~……私まだ予習終わってないんだけど?」 「天宮家の家訓を忘れたのかしら?」 「わ~わ~! わかった! 荷物置いたらすぐ行くから!」  あれ? 二階に上がってた莉緒、いつのまに一階に降りて来てたんだ?  っていうかあいかわらず天宮家の家訓ってなんなんだ……。一年になるけどまだわからん……。 「陽太。あたしの部屋に鞄置いたら()()にリビング来てよ」 「そんなきつく言わないでも変なとこ見ないよ……」  そんな僕って頼りないのかな。  そうやってボソボソぼやきながら、天宮家の二階にある天宮さん(奈緒の方)の部屋の前に着く。  天宮さんの部屋……ね。なんとも言えないモヤモヤした感じがあるけど、今はうちに閉まっておこう。  そして、いざ部屋の前についた途端に心拍数が上がったのか、普段はそれほど聞こえないはずの心臓がドクンドクン動いている音が聞こえる。  覚悟を決め、口内に溜まってた唾をゴクリと音がはっきり聞こえるくらい呑み込んだ。  息を整えた後、部屋を見るなと天宮さんから遠回しに忠告されたことを思い出して、床を見ながら部屋の入る。  どこか覚えがあるような可愛いカーペットが引かれていてその真ん中にはテーブルが置いてあった。  ただただ自分のカバンを置こうとしている場所を一点に見つめ、テーブルに立てかけるようにさっと置き、じろじろ見てないでしょ? と言われたくない一心で、一瞬で部屋を出てゆっくり呼吸を整えながら一階に降りた。  一階に降りてすぐ手を洗ってからリビングへ少しずつ近付くと、僕の大好きな食べ物の良い匂いがしてきた。 ◇ 「「「「ごちそうさまでした」」」」  天宮さん(姉の方)の部屋に鞄を置いて部屋を物色するわけでもなく、すぐに部屋を出てリビングへ向かう途中、天宮さんから「変なとこ見てないよね?」と再三にわたって言われた後、天宮さんと一緒にリビングへ向かい、大好きなカレーを天宮さん、莉緒、おばさん、僕の四人で楽しく談笑しながら食事をした。 「美味しかったよ天宮さん」  天宮さんというと、三人がピクッと反応した。  僕としたことが、うっかりしてた。  そういえば、全員()()だった……。 「……あたしのこと莉緒って呼ぶんだからお姉ちゃんのことも呼び捨てにしなさいよ」 「あ、それグッドアイデアだねっ! うんうん! あたしのこと奈緒って呼んで!」 「え、あ、いや……その……」 「なによっ! まさか呼べないってことはないでしょ?!」 「うふふ。落ち着きなさい莉緒。これは陽太くんの()()なんだから」 「……は~い」  なにやらご立腹の莉緒。  どうやら自分だけがまだ名前呼びなのが納得いってないらしい……やれやれ……とんだお嬢様だ。 「よーた。あたしの作ったカレーどうだった? お口に合った?」 「合うも何もものすっごく美味しかったよ! ……奈緒!」  ああ……やっちゃった。  俺の人生詰んだわ……。  ……ん? 天宮さ……奈緒の顔が赤いような……? 気のせいだよな? 「……はぁ。このど天然色ボケ男が、女にとってそれは告白されてるみたいなものなのよ?」 「え? そうなの? 美味しかったから正直に言っただけなんだけど……。なんかまずいこと言っちゃった?」 「ま、そんなあんただからお姉ちゃんも……」 「わー! お風呂できたみたいだから莉緒! 久しぶりにお姉ちゃんと入ろっか!」  えぇ……。そんなことある?  莉緒が何かを言い終える前に奈緒が莉緒の口を塞いで喋れないようにしたまま引っ張るようにリビングを出てお風呂場へ向かってった。 「なんかまずいこと言っちゃったのかな……」 「ふふふ。とっても良い方向に向かってるから良いのよ? だからそんな不安そうな顔をしないであげて?」 「わ、かりました……」  奈緒が莉緒を連れてお風呂に行れていったあと、少しだけおばさんと話した。  その後、眠気が急に襲いかかってきて、欠伸しながら寝ますとおばさんに言いながら二度お辞儀をしてリビングを出た。  リビングを出て二階に上がってる途中、奈緒と莉緒がお風呂に入っていることを想像してしまい、鼻を両手で覆いながら少し急ぎ気味に奈緒の部屋へ戻り、うとうとしかけてたこともあってか、座った後気付かぬ間にぐっすりと眠りについた。  …………………………  ……………………  ………………  …………  …… 「んっ……」  なんだこの柔らかい感触は……。  それに加えて今はもういない母さんの温もりのようなものも色っぽい雰囲気もどこからとなく伝わってくる。  おそらく夜中なのだろうか、柔らかい感触等々感じながら目が覚め、目をこするわけでもなく、数秒の間ぼーっとした後、ハッと我に返って周りを見ると大好きな天宮奈緒の部屋で寝ているのだということを実感する。  そんな中、違和感を覚えた柔らかい感触等々の原因は奈緒自身だったようで、どうやって俺を移動させたのかはわからないけど、今現状の状況を言うと奈緒のベッドで奈緒と一緒に二人で寝ている。  奈緒はというと、うっすら見えた限りではぴっちぴちのスポーティーな服を寝間着がわりに来ていて、両手? 両腕? かで俺の頭をがっちりとホールドしており、豊満な胸で危うく窒息するであろう距離だった。 「流石に奈緒とは一緒に寝れないよ……。まあでも、気遣ってくれてありがと」  それにさっきの状態だと心臓の音が伝わりそうで怖いし、ドキドキしすぎて自分じゃなくなる気がしてならない。  ……だ……から、僕は……床で寝……よう。 「……撫でられたらこっちの方がどきどきすんじゃん……。……()()()()()のばか」  ◇ 「陽太起きろっ!」 「…………ぐへっ」  早朝朝7半ごろ、どの体勢であの後眠りについたのかわからないけど、奈緒の元気な声とともに全体的にというか主にお腹にずしっと思い感触を感じ、目が覚める。 「陽太起きた?」 「起きたってn……」  腹に痛みを感じて床で突っ伏していると、プレスをかけてきた張本人の奈緒が起きたかを確認しようと覗き混んできたところを姉ちゃんにいつもされてた後のように返事をして振り返ったのがミスだったのか、幸か不幸かはわからないが自分的には運が悪く、奈緒とキスをしてしまい、普段は気付くはずの足音にも気付かぬ間ぼーっとしてしまい、こともあろうことか一番最悪な人にキスをしている現場を見られてしまった。 「陽太とお姉ちゃんがキスしてるよママ!!」  数秒間目が合い、すぐさま慌てるようにおばさんがいるであろう下のリビングへ向かっていった。 「莉緒これには深い事情があっ……」  石像のように固まってる奈緒を他所に、おばさんに報告しに行こうとする莉緒を止めようと弁明しようとしたが、あっという間に再び唇を奪われ、濃いのか普通なのか経験したことない僕には現状をどう表現していいのかわからない。 「ちょっとまっ……」  三度四度と唇を奪われた直後、どこかとろけた表情を浮かべながら奈緒本人は鞄を持って部屋を出ていった。 「……~~~~ッッッ!!」  頭真っ白、この後なにしようか予定立てようと思ってたけど全部ショートしたかのように一瞬にして消え去った。  なんというかもう僕、死んでも悔いないわと一瞬悟りかけた。  お肌つるんつるんになって下に向かってった奈緒とは正反対にげっそり痩せ細った僕は弱々しい感じのまま、リビングへ向かった。 「何があったらそんなげっそりなんのよ……ほらっ水。飲みなさいよ………」 「ありがと……。朝なのに物凄く疲れた」 「そんなんじゃ自転車乗ってけないでしょ? うちにおいてていいから学校が終わったら取りに来なさいよ。……いいよねママもそれで」 「オッケーよ」 「ま、そういうことだからあんたは自力で歩いてきなさい。お姉ちゃんはあたしが連れてくから」  オワタ……。今の僕ってそんなにげっそりしてるの?  ……っとと、まあいいや。とりあえず奈緒の家から学校まで歩いて何分なんだ?  今までずっと自転車だったから考えることなかったけど、遅刻は嫌だからもう出てた方がいいよな?
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