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第1話 女子大生Aさんの話 人魂
女子大生Aさんの話
私がXさんと会ったのは中学生の時ですね。
その当時、Xさんは高校生の男の子だったんですが、住んでいる所が全然違って会ったことが無かったんです。
Xさんと会ったのは曾おじいちゃんのお葬式の時でした。
あ、私とXさんは遠い親戚だったんです。
曾おじいちゃんは子沢山で孫もひ孫もたくさんいたんです。
私やXさんもそのひ孫ですね。
で、その曾おじいちゃんが亡くなって、親戚一同が大集合したんです。
びっくりしましたね。まさかあんなに親戚がいたなんて。
私より年下も年上も一杯いて子供も一杯いててんやわんやでした。
それでお葬式の夜、親戚一同で食事です。宴会というと不謹慎ですが、大人たちはお酒を飲みながら、あの人はああだったこうだったって話してたんです。
一方で子供たちは子供たちで集まって遊んでいました。
特にXさんはトランプなんかを使って退屈そうな年下の子供たちを楽しませていましたね。
かく言う私も彼のマジシャン顔負けのトランプ捌きに見入っていたんですけどね。
そんな時です。
みんながわいわいやってる大部屋にすうっと何かが入ってきたんです。
最初に気づいたのは小さな子供でした。
「ねえ、あれなに?」
子供が指差した所にあったのはふわふわ浮いた玉のようなものでした。
光っているように見えますが全然眩しくないんです。
そんな玉がふわーっとゆっくり部屋のなかを横切っていたんです。
次第に大人たちも気づいてポカーンとしていましたね。
しかし、誰かが言ったんです。
「ひ、人魂だ!」
その声にみんなが一斉にその玉から離れましたね。それはもう凄い勢いで。
でもその人魂は周りのことなんて気にも留めない様子でふわーっと移動を続けていました。
その様子をみんな固唾を呑んで見守っていました。いえ、誰も動けなかったという方が正しいでしょうか。
しかし、その人魂の前に立ちはだかった人がいたんです。
それがXさんです。
Xさんはあろうことかその人魂をガシッと鷲づかみにしてこう言ったんです。
「だれだ?この先にあるのは曾じいちゃんの遺体だけだぞ。」
その言葉に何人かはハッとしました。
確かに部屋を横断していた人魂の向かう先には曾おじいちゃんの棺おけがある方向でした。
ならこの人魂は曾おじいちゃん?でもそれなら棺おけのほうから飛んでくるのが普通じゃないの?自分の体に戻ろうとしている?
混乱する私たちを余所にXさんは
「・・・何?・・・そうですか・・・」
まるで人魂と会話するようにいくつか喋った後、人魂を持ったまま部屋を出て行き・・・直ぐに戻ってきました。
戻ってきた時には人魂は持っていませんでした。
「あ、あの人魂は・・・?」
「曾じいちゃんの所・・・曾じいちゃんの奥さんだった。」
みんなギョッとしました。曾おばあちゃんは確かに私が生まれる前・・・20年くらい前に亡くなったとは聞いていましたが・・・
「・・・そうか、曾おばあちゃんが曾おじいちゃんを迎えに来ていたのか・・・」
誰かがそう言ったのを聞いてみんなしんみりしていたのですがXさんは何故か首を振りました。
「違うよ。曾ばあちゃんはずっと曾じいちゃんのそばにいた。あの人魂は曾ばあちゃんのお姉さん、曾じいちゃんの前の奥さん。」
Xさんのその言葉に私たちは再度ギョッとしました。しかも今度は何人かが泣き始めました。多分誰かのおじいちゃんやおばあちゃんです。
その人たちによると確かに曾おじいちゃんには奥さんが二人いたそうです。
最初の奥さんとの間に何人か子供ができた(それが泣いていた人たち)のですが、その奥さんは病気により亡くなってしまった。
そこでその奥さんの妹さんがお姉さんに代わって子守をしていたそうです。
やがてその妹さんが後妻になり、子供を産んだそうです。
つまり私たちの曾おばあちゃんというのがその妹さんという事になります。
「あの人は自分の子孫や妹の子孫たちを見守るためにあっちこっち周ってたんだって。で、今日、曾じいちゃんが亡くなったから、曾じいちゃんと妹と一緒に天国に行くために戻ってきたんだって。」
その言葉を聞き、私達は自然と涙を流しながら曾おじいちゃんたちのいる方向へ手を合わせました。
Xさんは「引っつかんで悪いことしちゃった。」と言いながら子供たちの所へ戻っていきました。
その後は何事もなく、曾おじいちゃんの遺体は先祖代々のお墓へと無事埋葬だれました。
その際、私はXさんと話す機会がありました。
「Xさんって霊感があったんですね!」
「霊感?・・・いや、俺には無いよ。」
「え?で、でも人魂を掴んでいましたし、声も聞いてましたよね?」
「ああ・・・それは霊感とかとは別の理由。前に霊能者の人に見てもらったときは、霊感も無い、守護霊もいないし、加護もない、なのにどうして生きていられるの?って言われたな。」
このときの話はいまだにどういうことなのか私にも分かりません。
「ふーん。その理由って。」
Xさんはしばらく考えたあとこう言いました。
「・・・内緒だ。言っても真似できないし、できたら困るしな。」
「真似できたら困るの?」
「困るよ・・・見たくない物まで見えるしな。」
それを聞いて怖くなった私はそれ以上聞くのをやめました。
なお、その事件以降、Xさんは私達の間(特に子供たち)でヒーローとなり、困った時はXさんに頼るというのが親戚たちの間での暗黙の決まりになりました。
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