隠れんぼ絵画

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 内田が前を通りすぎて廊下に出て行った。慌ててあとを追う。呼びかけるも止まってはくれなかったが、教室にいなくていいのか。返事はしてくれた。 「僕はまだ、君に許してもらえてない」階段を降りていく。おそらく図書室に戻るのだろう。本は図書室に置きっぱなしのはずだった。 「条件は満たしたし、もう許したことにしてくれていいから」歩く速度が速くなる。階段を降りきって、一階にきた。 「違うって」抜かして前に回り込む。ようやく止まってくれた。  僕は、吐き出した声が震える。 体育の時間に、ダブルドッジボールをした。ボールを二つ使って行うドッジボールだ。狙う気はなかったのだろうが、蓮の投げたボールが内田の顔面にあたった。転んだ拍子に眼鏡が顔から外れて飛んでいった。一方、こちらは真後ろで外野の生徒がもう一つのボールを手にした。身を反転して、後ろ歩きに下がっていると、聡太郎、止まれ。どこからかの切迫した叫び声。振り返れば倒れている内田君と、足元で何かが割れる音。足をどけてみれば、眼鏡が粉々になっていた。  これが、第三者から見た、事故の真相。  しかし本当は、少し違う。 「僕は、わざと内田君の眼鏡を踏んだんだ。理由はなかった。でも、眼鏡があるってことには気がついていた。下がりながら一瞬だけ確認したから。でも踏んだ。だから――」 「やっと、認めたな。が、一つ訂正だ。理由がなかったってことはない。あんたはどこかで、完ぺきではない自分を披露しなければならなかった。勉強も運動も、ピアノもできてしまう、性格的にも表面上、欠点はない。完ぺきすぎると、どこかで恨みを買うかもしれない。だから今回は、失敗を見せる絶好のチャンスだった」  かぶりを振る。「そんなこと考えてないよ」 「じゃあ、もっとかわいそうだな。潜在的に考えて、やっちゃったんだからな」内田が横をすぎていく。  もう、許してやるよ。聞こえた気がした。だが、遠ざかっていく彼のものなのか、自分の妄想が彼の声で作り出したのか、よくわからない。 【ぐんコミ頒布本、書きおろし短編に続く】
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