隠れんぼ絵画

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 ドアが閉まった途端、一気に一人一人がうるさく話し始めた。犯人は内田なんじゃねえの。理由は嫌がらせとか。あいつ暗いし、そういうことやりそう。  内田犯人説がささやかれることは、都合がよいから一向に構わない。そんな、まだ何もわかんないし、疑っちゃだめだよ。必死を装って訴えれば、かばう必要なんてないぞ、お前だってあいつに嫌がらせ受けてるみたいなもんだろ。聡太郎は毎日謝ってんのに、許さないって、ほんと図に乗ってんだろ。日頃の振る舞いのおかげで、より一層よい立ち位置をくれるから。  だが本音を言ってしまえば、内田がやるわけはないに決まっている。彼は「私の一枚」をさっさと完成させて、みんなが必死に描いている中、悠々と読書を始めていたのだから。本気でクラス代表に選ばれたかったら、もっと時間をかけるはず。  似たような意見を持っている人もいたようで、内田をかばう人も同じくらい見られた。そもそもあいつの出ていく直前の言葉、覚えてないの? やっぱり許せないって、盗んだやつに対してだと思うけど。そうそう、内田は見てたんじゃないのか、取られるとこ。  社会の先生が入ってくるまで、チャイムが鳴ったことには気がつかなかった。内田は結局戻ってこなかった。  まるで学級崩壊だ。全く関係のないはずだが、先生は授業を始める前に興奮状態の生徒を落ちつかせなければならなかった。立場上先生に加勢する。  午前最後の授業、数学はさすがに落ちつきはしたものの、先生がこちらに背中を向けるたびに、あちこちで手紙の受け渡しが手早く行われた。内容など見なくてもたかが知れている。  そわそわと周りを気にする振りをしながら、だんだん楽しくなってきた。クラスが疑心暗鬼になっていく。やったやつはどう思っているのだろう。
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