隠れんぼ絵画

8/10
前へ
/10ページ
次へ
 昼休みに図書室を訪れる。今日は二年五組の図書委員の担当ではないらしい。内田は読書スペースで窓に背中を向けて本を読んでいた。週ごとに担当を割りあてられたクラスの図書委員は、昼と放課後にカウンターで本の貸し出し手続きを手伝うことになっている。  ギルバート・キース・チェスタトン。気分はミステリーなんだ。前から声をかける。ページがめくられた以外に反応はなかった。 「内田君、絵を取った人が誰か、わかってるの?」 「わかってたらなんだ。教えてくださいって土下座でもするか? 大歓迎だ」  まさか、はなから教えてもらおうという気はない。ただ、確認が取りたかっただけなのだから。その感じだと知っていそうだね。断言すると隠すこともなくうなずいた。一人しかいないからな。 「絵を隠した人って言ったよね? どうして盗んだ人じゃないのか、少し引っかかったんだ」 「どうしておれに話しかける」頬づえをつく。「確認が取りたいだけなら、本人に訊いてみればいいだろ。誰がやったか、あんたには見当がついてるんじゃないのか? それとも、またお得意の点数稼ぎか? ご苦労だな」 「違うよ」首を横に振る。「確かにやった人はわかる。けど、やった理由がわからないから、隠し場所を訊き出すのも難しいんだ」  一瞬だけ、こちらに目を上げた。「木の葉を隠すなら森の中」 すぐに言葉が出てこなかった。「確か、ものを隠したいときには同じものの中に隠すと見つけづらいこと、だっけ?」  わずかに頭が縦に振られる。 「同じものの中に隠すとしても、壁に貼られている絵は一枚一枚規則正しく並べられているから、変化にすぐ気がつくと思うけど。それにそのことわざは、その場に一枚くらい増えていてもわからないってことだよね? 今回は減っているんだよ? 絵の中に隠すなんて――」  遮るように内田がため息を漏らした。「確かめてみるか?」しおりを間に挟んで本を閉じる。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加