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病院の後はゆり子の墓に行った。
ゆり子の好きだったピンク色の薔薇を墓前に供え、線香をあげた。
命日に来た時は香港での事を報告するぐらいしか、話をしなかった。
「ゆり子、また来たよ」
ゆり子の笑顔が浮かんだ。
大好きな笑顔だ。ずっとその笑顔を隣で見ながら一緒に年を取りたかった。
「もう僕は君より年上になったよ。立派なおっさんだ。君と出会った時は早く年を取りたいって思ってたのにな。今は逆の事を思うよ」
一瀬君と同じ年になりたいと何度願った事だろう。
19才の年の差が重く感じた。
それだけで自分は相応しくない気がして。
「ゆり子、君もこんな後ろめたさを感じてたのか?僕は若さだけで突っ走ってたけど、君はきっと違ったんだろうな。迷いながら、ちょっとずつ僕を受け入れてくれたんだろうな」
簡単に首を縦に振らないゆり子に何度も何度も気持ちをぶつけた。
何度も振られて、それでも諦められなくて、ゆり子を追いかけた。
その時はゆり子しか見えてなかった。
“一瀬と結婚します”
石上君の言葉が浮かぶ。
堂々とそう言える石上君が羨ましい。
石上君は一瀬君に相応しい。きっと一瀬君の親御さんだってそう思うばずだ。
だからこれ以上、関わらない方がいい。
そう思うのに、すぐに揺れる。
本当は、本当は――
苦い気持ちと一緒に息を飲んだ。
夕陽が射していた。墓石が茜色に染まっていた。
物悲しそうにゆり子がこっちを見てる気がした。
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