27 本当の気持ち【上村】

6/7
前へ
/245ページ
次へ
 病院の後はゆり子の墓に行った。  ゆり子の好きだったピンク色の薔薇を墓前に供え、線香をあげた。  命日に来た時は香港での事を報告するぐらいしか、話をしなかった。 「ゆり子、また来たよ」  ゆり子の笑顔が浮かんだ。  大好きな笑顔だ。ずっとその笑顔を隣で見ながら一緒に年を取りたかった。 「もう僕は君より年上になったよ。立派なおっさんだ。君と出会った時は早く年を取りたいって思ってたのにな。今は逆の事を思うよ」  一瀬君と同じ年になりたいと何度願った事だろう。  19才の年の差が重く感じた。  それだけで自分は相応しくない気がして。 「ゆり子、君もこんな後ろめたさを感じてたのか?僕は若さだけで突っ走ってたけど、君はきっと違ったんだろうな。迷いながら、ちょっとずつ僕を受け入れてくれたんだろうな」    簡単に首を縦に振らないゆり子に何度も何度も気持ちをぶつけた。  何度も振られて、それでも諦められなくて、ゆり子を追いかけた。  その時はゆり子しか見えてなかった。 “一瀬と結婚します”  石上君の言葉が浮かぶ。  堂々とそう言える石上君が羨ましい。  石上君は一瀬君に相応しい。きっと一瀬君の親御さんだってそう思うばずだ。  だからこれ以上、関わらない方がいい。  そう思うのに、すぐに揺れる。  本当は、本当は――  苦い気持ちと一緒に息を飲んだ。  夕陽が射していた。墓石が茜色に染まっていた。  物悲しそうにゆり子がこっちを見てる気がした。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2643人が本棚に入れています
本棚に追加