26 石上【美月】

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「本当に冗談じゃないの?」  石上を見た。 「冗談でこんな事できるかよ」 「でも、いきなり過ぎる。なんでなの?」 「なんでって……だから好きだって言ってるじゃないか」 「どうして?」 「答えづらい事ヅケヅケ聞くなよ」 「だって、何か訳がわからないって言うか」  石上がため息をついた。  そして思い出すように窓の方に視線を向けた。 「大学生の時、バーベキューした事あったよな。ゼミのイベントで」  夜景を眺めながら石上が言った。 「お前さ、あの時、あんまり食べてなかっただろ。裏方ばっかりで」 「そういう性分だから」 「お前って要領悪いよな。いつも割りに合わない仕事引き受けてさ。それで文句を言うって訳でもなく黙々とやるんだよ」 「石上には言ってるよ」 「そうだな。俺には言ってるな。でも、少しだろ?」 「そんな事は……」  そんな事はない。そう口にしようとして、目の奥がうるっとした。  不覚にも泣きそうになる。 「意地っ張りだよな。もっと弱音吐けよ」 「これ以上、石上に弱点なんてさらせない。だっていじめっ子だもん」 「まあ、そういう所が好きなんだよ」  石上がこっちを見て笑った。  今まで見た事のない優しい笑顔だった。  マンションに帰っても石上の笑顔が頭から離れなかった。  あいつ。あんな優しい顔もするんだ。  いつも怒ってるか、からかってる所しか見た事がない。    気持ちが揺れる。    でも、私はやっぱり課長が好きで………。  だけど、課長は今でも奥さんが好きで、私なんて入り込む余地なんてなくて……。それでも、やっぱり課長が好きで……。  どう考えても、諦められない。  なんて往生際が悪いんだろう。  一層の事、課長に嫌われたら諦められるのかな。    嫌われるか。  もしも、また香港まで追いかけて行ったら、さすがに引かれるよね。  自分でもそう思う。  だけど、最後にもう一度だけ課長に会いたい。  今のままじゃ終われない。
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