2643人が本棚に入れています
本棚に追加
「血のつながりがない私を娘にしてくれてありがとう。ずっと言いたかったの」
葵が恥ずかしそうに笑った。
「……知ってたのか」
「私、お父さんに会った日の事、ちゃんと覚えてるよ。頭なでなでしてくれて、『葵ちゃん、友だちになってくれる?』って言ってくれたよね」
初めて葵に会ったのは葵が二才の時だった。
ゆり子に連れられて、不安そうにこっちを見てた。
「あんな昔の事、覚えてたんだ」
「記憶力いいでしょ」
「良すぎる」
ずっとわかってて、葵は一緒にいてくれたんだ。
そう思ったら、ありがたくて、ありがたくて……。
じわりと目頭が熱くなった。
「お父さん、なんで泣いてるの?」
「泣いてない」
「もうしょうがないわね、はい」
葵からティッシュを渡され、それで涙を拭った。
「お父さんて涙もろいんだよね。結婚式もバージンロード歩く練習の時からいきなり泣いてたよね」
「泣いてない」
「泣いてたよ」
「泣いてない」
「泣いてた」
葵がコロコロと明るい声で笑った。
「お父さん、素直になった方がいいよ。好きな人に逃げられちゃうよ」
似たような事を間宮君にも言われた。
「何言ってんだ。お父さんはもう49だぞ」
「年なんて関係ないよ。それを一番知ってるでしょ?」
「生意気な事を言うようになったな」
葵と顔を見合わせて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!