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2 3年越しの告白【美月】
年末年始は千葉の実家で過ごす予定だった。だけど、実家に帰る気力がなかった。友達と旅行すると嘘をついて、ずっと部屋にこもっていた。課長が好きだと言ってたビル・エヴァンスのCDを毎日聴いてた。
あの夜の、課長の不愉快そうな顔が頭から離れない。何とも思ってない相手にキスされれば当然か。きっと、嫌な思いをさせてしまった。酔っ払いにキスされるなんて、冷静に考えれば最低だ。なんであんな事をしちゃったんだろう。
ベッドの中でいくら考えてもわからなかった。
年が明けて、仕事始めの日、制服のシャツをしっかりとアイロンした。せめて仕事中はちゃんとした自分の姿を課長に見てもらいたい。
普段より二本早い電車に乗った。電車が動き出した時、反対側の窓際に見慣れた後ろ姿が見えた。
チャコールグレーのロングコートに、黒っぽいマフラー姿――上村課長だ。
課長に気づかれないように、すぐに背を向けた。心臓が耳元にあるみたいに大きな音を立てていた。緊張でお腹が痛くなり始める。
どうしよう、課長に会うのが怖い。
また、不愉快そうに見られたら、生きていけない。
早く駅に着いて欲しい。早く電車を降りたい。なのに、信号機の故障とかで、駅に着く直前に、電車が止まった。
乗客たちが一斉に不機嫌になるのがわかる。暖房が効いた電車は胸がムカムカとしてくる。なんか、気持ち悪い。
朝は何も食べていなかったけど、何かが込みあがってきた。手先が冷たくなって震えていた。立っているのも苦しい。外の空気が吸いたいのに、電車の扉は閉まったままで、どうする事も出来ない。
ダメだ。こんな所で戻したら迷惑になる。社会人として、ダメだ。
「一瀬君、大丈夫?」
日なたの匂いがして顔を上げると課長がいた。
「気分悪いの?」
うんうんと大きく頷いた。
「すみません」 と、窓の前に座っている人に課長が声をかけた。そして席を譲ってもらい、私を座らせた。
課長はテキパキと窓を開けてくれた。冷たい外気が入って来た瞬間、ムカムカとしたものが落ち着いてくる。
「一瀬君、どう?」
いつもと変わらない優しい声で聞かれ、安心する。
「少し落ち着きました」
「良かった」
課長が穏やかな笑みを浮かべた。好きなエクボが見えた。
信号機の点検作業が終わり、電車が走り出した。
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