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駅に着くと課長と一緒に降りた。
「少し休憩しようか」と言われ、ホームのベンチに座った。
正直助かった。このまま会社に行く気力も、どこか適当な店に入る気力もない。
「良かったら、どうぞ」
隣に座った課長がコートのポケットから缶コーヒーを取り出した。
「会社で飲もうと思って、さっき買ったんだ。まだ温かいから」
渡された缶コーヒーの温かさに、ホッと心が緩む。こういう気づかいが出来る人なんだ。だから、いいんだ。
「何かすみません」
課長の優しさに胸が痛くなる。
あんなことをしたのに、課長は何もなかったような顔をしている。
「いいんだよ。僕もこうしたかったから」
穏やかな顔をした課長が、いつも通り過ぎて痛い。
「ちょっとくたびれたよ。正月ボケかな」
課長があははと笑った。
あんな事があっても課長は気楽に笑えるんだ。
私の事なんて、何とも思ってないんだ。
課長の隣にいるのに、悲しくなった。
「先に行って下さい。本当にもう大丈夫ですから」
普段通りに言ってるつもりなのに、声がちょっだけ震えた。
「本当にもう大丈夫ですから」
「僕が邪魔?」
「え?」
「僕の顔なんか見たくないよな」
「いえ、そんな……」
顔を上げると、ちょっと困ったような課長の目と合った。
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