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「この間はその、すまなかった。急にあんな事されてびっくりしたというか、どう反応したらいいかわからなかったんだ」
思いがけない言葉に心が揺れる。
「だからその、怒ってないから。僕に怯えないでいいから」
「怯えてましたか?私」
「うん。電車に乗った時、僕を見つけて表情が強張ってた」
課長に見られてたと思った途端、頬が熱くなる。
「背を向けてたのにわかったんですか?」
「窓ガラス越しに君の姿が見えたんだよ」
「なんか、すみません。私が悪いのに」
「イヤ、僕も悪かったよ。突き放すようにして君をエレベーターから降ろしたから。大人らしい対応が出来ていなかった」
「いえ、私の方こそ」
「いや、僕の方こそ」
目が合った時、課長がバツが悪そうに笑う。
そんな顔した課長を見たの初めて。
ああ、そうか。課長、照れてるんだ。あのキスを気にしてくれてたんだ。
そう思ったら、くすぐったいような気持ちになる。
「という訳で、あの事はきれいサッパリ忘れよう。酒の上での事だ」
――酒の上での事。
その言葉に胸がズキッと痛くなった。
「そうしてもらえると、助かります」
作り笑いを浮かべた。
「本当に助かります」
胸がさらに痛む。なかった事にしたくない。拒絶されてても、あの夜の事はちゃんと覚えてて欲しい。あの夜のキスは本当の気持ちだから。お酒のせいじゃないから。
目頭が熱くなった。
ダメ。ここで泣いたら変に思われる。ダメだ。ダメだ。泣くな。
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