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 火曜日は軽音楽部に朝練習があった。だから職員会議開始時刻の八時三十分頃にしおりが登校したときには、明日奈は教室にいた。朝練習は八時二十分に切り上げることになっているのだ。席の主のお出ましに、彩子は立ち上がって譲った。挨拶を交わす。リュックを手探りで机の横にかけながら、廊下側を向いて座る。明日奈の机の上には、一通の封筒が乗っていた。何これ。背もたれにひじをついて、しおりは尋ねる。 「下駄箱に入ってたん」気のない様子で白い封筒の両端をつかむと、両ひじをついて持ち上げる。 「えっ、何、呼び出されたの?」 「ついさっきまでこれの話してたんだけどさ」彩子が身を乗り出す。「絶対告白じゃんっ? そうじゃない?」 「そういう感じの内容なの?」受け取った本人に目を向ける。 「見る?」机越しの視線を受けて、封筒の角を向ける。しおりが受け取った。  今日の十六時五十分に、中庭にきてください。  A4の白い紙に印字されていた。たった一行を記すにしては、上にも下にも余白が目立つ。 「ねえ? 告白だよ、これーっ。わあ、今どきこんなやり方あるんだ。やばーっ」彩子が興奮する。 「でも」しおりは封筒の裏表を確認する。「差出人の名前がないけど」 「書かないんじゃないの? 名前見て行くか行かないか判断されても困るし」  ああ、そうか。納得し、折れ線に沿って紙をたたむ。明日奈、行くんでしょ? 彩子が尋ねると、んー、呼ばれちゃったから行くけど。気のない様子に、あれ、今好きな人いたっけ? 彩子のテンションも落ちる。いないけど、あんま興味ないなー。以前の彼氏と別れてから度々見せるようになった見解を示す。 「えー、もったいなっ。せっかくの誘いなのに」口をへの字にしている。「行くだけ行ってみなよ。誰が出してきたのかも、気になるでしょ?」 「私も、行くだけは行ってみたらいいと思うけど」封筒に手紙をしまい、返す。「無理にとは言わないけどさ」 「んー、あっそうだ、しおりん」明日奈は横にかけているリュックのチャックを開ける。片手では手紙を放り、片手では中をあさっている。「限定ラバスト、まだ持ってないんしょ?」 「え? まだって、これからも手に入る見込みはないよ」 「そっれはどーかなー」リュックに傾けていた身体が戻る。もの知り顔で仏頂面を見ながら、じゃーん。効果音に乗せて机の上に置いた。  しおりは元来鋭い双眸を丸くし、口をかすかに開いて固まった。
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