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「あーあ、じゃあ私も予約しとけばよかった」彩子は肩を落とす。 「推しじゃないののラバストなんて、ごみになるだけでしょ」水筒をリュックにしまう。 「そうしたら、しおりにあげればいいでしょ」 「私、いくら推しでも二つもあったら一つは捨てるか売るかする派だから」 「んー? それって推しって言えんのかー? 愛がたりないよ?」彩子はわざとらしく笑う。 「同担で持ってない人たちに分け与える心優しい人って言って」 「でも推しだったら、手放せらんなくない? 普通」  後ろからの声に、しおりは振り返る。江上明日奈が真後ろの机にリュックを置いたところだった。話していた二人はそれぞれに朝の挨拶を投げる。それからしおりは、確かにワルコレの中だったら最推しだけど、二次元の最推しは別にいるから。反論した。えー、二次元は浮気の許されるクリーンな世界なんにー。もったいなー。唇をとがらせると、しおりの横に移動した彩子に同意を求める。まあ、しおりは一途だからなー。どっちつかずに笑った。  明日奈も「LL」を手にいれていた。そもそも二人に勧めたのは彼女だ。二人とも、それまでは乙女ゲームをしたことはない。それぞれの進捗具合を確認し、感想を言い合う。明日奈はすでに五人中三人を攻略していたが、しおりと彩子はそれぞれの好きなキャラクターを攻略したところで止まっていた。 「えー? 彩子、うちんちでやったとこから進んでないんだー」明日奈が不満気に言う。二人は一週間前から、発売日に明日奈の家でゲームをする約束をしていた。しおりも誘われていたが、午後から所用があったので、誘いに乗ることはできなかった。 「課題、終わってなかったからさ。今日提出の英語の」 「あんね。あれ、私終わんなかったから、明日出す」 「はいはい、先週の二の舞ね」ため息混じりだったが、にしてもさ。仕切り直したときには、声音がわずかに上向きになる。「今回、今までの中でもそうとうなできじゃないか? 私は、シリーズの中で一番好きなんだけどさ」  彩子の感想をきっかけに今まで発売されたシリーズと比較して、よいところと悪いところをわいわい言い合い始める。すると、ちょっと失礼。演技じみた第四の声が降ってきた。会話が止まる。椅子が横になるようにして座り、背もたれにひじをかけて談笑していたしおりは、教卓の方を確認しようとしたが、必要はなかった。明日奈の机の横に立っている彩子の隣、しおりの目の前に、染木翠世が入ってきたからだ。しおりは素早く足を引っ込める。
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