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 横で立っている彩子が代わりに、えっ、と明日奈の机に両手をつく。これって、予約限定の。 「そっ、予約限定のしおりんの推し。もしよければあげよっかなって思って」 「えっ、でも明日奈、予約限定は買ってないって」 「そうなんだけどさー、部屋にあったんよ」 「それって、里香のじゃないの?」  里香とは、明日奈の妹だ。 「知らん。でも、いいんじゃん? だって他人の部屋に忘れるくらいだもん。そんないらんってことっしょ。それに、里香は通常版だよ。推しじゃないから」黙っている友人に視線を下ろす。「しおりん、だからもらってよ。それにこういうのって推してる人の方が大切にするじゃん」  しおりは彩子と同じような疑問を抱きはしたが、いいの? 誘惑が勝った。いいんだってば。ほら、持ってってよ。明日奈は改めて言うと、ためらいぎみの手に握らせた。 「もう」彩子はため息をつくように吐き出したが、念願の品物を前に照度が上がった友人に、「でもよかったね、しおり」 「うん、本当にありがとう、明日奈」あまり感情の出にくい顔がにわかに和らいだ。  放課後になって、明日奈、どうするのさ。行くんでしょ? 彩子が尋ねた。しかし肯定も否定もせず、図書室に行く、と言って毛先にウェーブのかかった長い髪を揺らしながら、教室を出て行った。  だが結果から言えば、尾国彩子の心配は杞憂に終わった。 「昨日、誰もこなかったんよ」  翌日の昼休みに、本人からの報告があったからだ。
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