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「だって、僕クォーターだから」
貸本屋のレジカウンターとして機能している年季の入った文机の向こうで、嶺二はしれっと言い放った。
「なに、クォーターって」
「僕の血の四分の1は妖精の血ってことだよ。森の奥深くで妖精たちが閉じ込められている本を見つけた祖父は、その本を日本に持ち帰りました。そして、美しい妖精と恋に落ちました。いや、逆かな。恋をしたから本を持ち帰ったんだっけ。まぁ、いいや。2人は結婚し、僕の父が生まれた。父は美しい人間と恋に落ちて、結婚して、僕が生まれた。つまり僕はクォーター。オッケー? 」
半紙の上に筆を滑らせながら、同じような滑らかさで話し終えた嶺二を黙って見つめる。書いている文字は——イケメン揃ってます。え、なにそれ。という疑問は飲み込んだ。
彼は妖精と人間のクォーター。
確かに彼にはそういうところがある。おちゃらけているのは余所行きの彼であって、本質はまた別のところにある。そんな感じがしていた。
まさかこんな重大なことを隠していただなんて……全く彼らしい。
「ってことは、僕も柚月ちゃんと結婚できるんだ」
「できるよ。世の中には知られていない便利な制度が色々とあるからね。みんなが知ろうとしないだけさ。知れば面白いことも沢山あるのにね」
やっぱりこんな寂れた商店街じゃなくて、もっと沢山の人が集まる場所に出店した方が良かったんじゃない? とは言わなかった。
彼のいう通り悪目立ちするのは良くない気がした。妖精は妖精らしく、愛しい彼女を癒してあげよう。
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