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——満月がこちらを見ている。
柚月の手を引きながら、歩き慣れた花畑を進んで行く。どこまでもどこまでも続いている花の海は、その果てを見据えることができない。
月明かりは刺すように辺りを照らし、色とりどりの花々が吹くともなく吹いている風にその身を揺らす。
「やっぱり妖精に生まれたかったな……」
感嘆の声を上げた柚月が、次の瞬間、独り言のように呟いた。
「妖精なんて退屈だよ。断然、人間の方がいいよ」
人間に生まれていれば、柚月と普通に恋をして、普通に結婚をして、機会があれば子育てなんかもしちゃって——そんな夢を描いたりする。
妖精の自分と人間の柚月がそんな普通を手に入れられるのかは知らない。今度、嶺二君に聞いてみよう。
「お互い無い物ねだり、だね。持っていないモノをあれが無いこれが無いって嘆くよりも、持っているモノを大切にする方が素敵だよね」
クスリと笑った彼女の意見には、半分賛成で残りの半分は賛成できない。そう思った。
例え無い物ねだりだとしても、どうしても手に入れたいモノへと必死になって手を伸ばすことを恥ずかしいとは思わない。嘆くことも然りだ。
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