プロローグ

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プロローグ

 そいつ(・・・)の見た目を一言で表すなら、「超巨大なウニ」が一番近いだろう。  全身からどす黒いトゲを生やした球形の生き物――なのかどうかはちょっと怪しい――が、大地を豪快に転がり、こちらに迫ってきていた。  どんなカラクリがあるのか、傾斜も殆ど無い平地なのにドえらいスピードが出ている。  背後をチラリと(うかが)う。  そこには高い高い城壁がそびえているのだが……所々に無数の穴が穿(うが)たれていて、それが壁の上の方にまで続いている。  これは「以前の襲撃」の際に、この巨大ウニが城壁を登っていった痕跡らしい。  やつは全身のトゲを城壁に突き刺しながら、ゴロゴロと転がってそのまま城壁を登ってしまったのだとか……。  話だけ聞けば、なんともシュールなだけの光景に思えるが、実際はそうではない。  なにせ、このウニ野郎はそのまま城壁の中――街へと侵入し、そこでもゴロゴロゴロゴロと転がりつ続け、そこらじゅうを穴だらけにしていったのだ。  ――道も、家も、家畜も、そして人間も。  沢山の人達が穴だらけの無残な死体になった。  今また、このウニ野郎が街へ侵入すれば、更なる犠牲が出るだろう。  ――俺が、止めなければならない。 『来いや、このウニ野郎! 俺が相手だ!』  まさか、ただのサラリーマンだった俺が、こんなヒロイックな台詞(セリフ)を吐く日が来ようとは、夢にも思っていなかった。  人生、分からないものだ。  もちろん、普段の俺ならばあんなウニの化け物を前にして、こんな堂々とした言葉は吐けない。  だが、今の俺の体は文字通り鋼鉄なのだ(・・・・・・・・・)。あんなウニ野郎のトゲなんぞ恐れる必要のない、強靭(きょうじん)な装甲と、それを支えるパワーがある。  ウニ野郎が目前に迫る。  大地に無数の穴を穿ちながらゴロゴロと転がり、土煙と共にこちらへ向かってくる。  ……まずは、やつの動きを止める!  俺は鋼鉄の脚を大地に踏ん張り、やつを受け止めるべく構えを取った。  ――刹那、俺とウニ野郎とが激しく激突した。  硬いもの同士がぶつかり合う甲高い音が周囲に響き、俺の視点はグルグルと回転を始め――ん? 回転……?  そう、世界が回っていた。グルグルグルグルと、物凄い勢いで。  「俺はウニ野郎のトゲで全身を貫かれ、そのまま回転に巻き込まれているのだ」と気付いたのは、意識が遠のく直前だった。  ――一体、どうしてこんな事になったんだっけ?  薄れ行く意識の中で、俺はつい数時間前の出来事を思い出そうとしていた。  そう、あれはいつも通り終電で家に帰り着いた後の事だった――。
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