② いかなるときも小鳥遊玲は(が)怒られる

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 数分としない内に俺はハヤカワの海外SFコーナーに立っていた。  とはいえ特段SFに興味がある訳ではなく、まして、SF映画は都合二回見た覚えがあるが、小説としてはまだ手にしたことすら無い。  なんなら観た映画の内容もさほど覚えていない。    それでも手に取ったのは、いつだったか誰かに薦められたからだろう……それも熱心なSF愛好家に。  もっとも、誰に薦められたかは朧気で、読んだ感想を言い合う相手も今となっては居ないのだけれど。  ゲームセンターで財布にしまいそびれた千円札をジーパンのポケットから引っ張り出す。  案の定くしゃりと皴ができていたが、さほど気にすることでもない。  ジャケ買いは悪いことだと思いつつも、そのまま適当に見繕った小説を二冊買う。  古書店を出ると、本腰を入れ蛁蟟(ちょうりょう)が鳴き始め、七月の湿った風が頬を撫でる。  ほんの数秒気を抜いたら踵を返している程度には古書店が恋しくなりはしたが、古書店がそれほど快適だったかというと特にこれといって……というべきか。  環境に配慮し省エネが徹底されていたという表現が恐らく一番穏便かつ適切なのだろう。  とはいえ、少なくともここまで蒸し暑くはなく、鬱陶しい蛁蟟の鳴き声も然程聞こえない程度にはマシではあったのだが。  まぁ、あれだ。わざわざ戻るというのも億劫だと結論付け、俺は一先ず喉の渇きを潤すべく自販機を探すことにした。
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