② いかなるときも小鳥遊玲は(が)怒られる

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 替玉食堂にしたほうが良さそうだ。博多ラーメンの店で、白濁した濃厚な豚骨スープと店名の通り替玉一玉無料なのが学生の懐に優しい。  それに、替玉は注文しなくても何ら支障はなく、つい食べ残してしまうなんてことにならないのも、もったいない精神を大事にしたい年頃の俺にとっては魅力的だった。  あまり急がずとも十分もあれば行けるのだが、やはりラーメンの魔力には勝てず階段を一段飛ばしで駆け降りる。  中央大通りを道なりに歩く。近くに市役所と公園があるため普段はわりと混むそこは、ちょうどランチタイムということもあり閑散としていて、いつだったかテレビで見たナポリのゴーストタウンを想起させた。  すっかり標識板が剥がれ落ちた電柱に目をやると、止まっていた蛁蟟が居心地悪げにジジと短く鳴き飛び去る。  それと同時に腿に伝わるバイブレーション。  初期設定は小鳥の囀りだったはずだ。買ってから弄った記憶は一切ないのだが、いつから俺の携帯は震えるようになったのだろう……。  今度ショップで見てもらうかなどと考えつつ、渋々ジーパンのポケットから携帯を取り出し耳に当てる。 「……もしもし」 『あれ、珍しい。玲がこんなに早く出るなんて。てっきり折り返さなきゃならないかと思ったよ。まぁ、耳に当てるだけだしカンタンか』  調月朝日(つかつきあさひ)にとって俺がどう見えていたかは一旦置いておくとして。
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