② いかなるときも小鳥遊玲は(が)怒られる

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 スプーンを片手にそう言った真希ちゃんは妙に似合っていて、「役得」なんて言葉が脳裏を過ぎったが……これは巧妙な罠だ。  そも俺がこれから食わされるのは劇物だ。自分のペースでいかないと朝日の二の舞になる。  いや、気絶寸前で止められ生き地獄を味わわされる可能性も捨てきれない。  そしてなにより「あーん」なんかしてもらったら姉さんに間違いなく詰められる。 「いや、自分で食べます!」  そう言いスプーンを受け取ると、真希ちゃんが少し残念そうに見えたが、気のせいだろう。    意を決して口に入れた途端、頭痛を伴う甘さと、ざらりとした食感。  ほんの一口で鈍痛に襲われたが、そんなことは些細なこと。  なにより恐ろしいのは、その一口がグレープフルーツスプーンの一口分ってことだ。 「れ、玲さん、嫌でしたら食べなくても……」  表情として見たら笑顔そのものだが、声音は少し悲しげで。  守護(まも)らねば。既に朝日が犠牲になってしまった以上、彼女を守護れるのは俺しかいない。俺は寒天をジュレのように崩し、一気に流し込んだ。  味蕾との接点を減らし、更に細かくしたことで飲みやすい。我ながら完璧な作戦だ。なんとなく服薬ゼリーと同じ扱いしてるのにさえ目を瞑れば。 「ちょっと甘かったけど美味しかったよ。その、友達に分けてやりたいんだけど……残りって持って帰ってもいいかな?」  実際、女子の手作りのものに飢えているクラスメイトは多く、そいつらに一口あたり五百円くらいで売り付ければ直ぐになくなるだろう。
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