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「……前に言ってたじゃんか。『玲は演技派だね』って」
そう、真希ちゃんに対してしくじったことの原因の一つはこいつにあると言っても過言ではないのだ。
「……あー、それか。たしかに言ったかもしれない。ごめん」
はぁ。謝られてしまうと怒るに怒れない。
これは山月記の李徴の自虐と同じで、自分が駄目だと認識しているところを相手より先に自分から指摘することで責められないようにする一種の自己防衛の方法なのだろう。
それが、こいつの場合は先に謝っておくというだけだ。
「……クッキー焼いてくれたら許す」
「玲……野郎のツンデレに需要はないよ」
「……るせぇ」
べっ別にあんたのクッキー食べたいわけじゃないんだからねっ!――キモいな、俺。
一人寂しく脳内でテンプレのツンデレごっこをして遊んでいると
「ただいまー!」
と元気な声が聞こえてきた。その後に、「お邪魔します」という嫌というほど聞き覚えのある凜とした声も聞こえてしまった。
「いらっしゃい」
朝日は帰ってきた二人に挨拶をした。まぁ挨拶は人としての基本だもんな。俺も、挨拶をしよう。
……メガネよし髪型よし服装よし。
家を出たときとはカンペキに異なる容姿だ。流石にバレないだろう。
「こんにちは」
おおっ? やっぱり俺って演技派なのでは?
少なくとも真希ちゃんに気づかれてはいないようだ。これ勝ち確か……と思ったのだが。
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