12人が本棚に入れています
本棚に追加
手紙④
アブサンが私の首を絞めるんだ。
今も。
「僕を見て」
「僕を愛して」
と。
かつて彼に縋った私のように。
乞うのだよ。
アブサンが。
緑の妖精が。
ツヨンの幻覚が。
愛する君と瓜二つの彼が。
ふふ。
酒のアブサンを飲まなくても。
眠っていても。
現(うつつ)となって。
私に。
縋って。
はは。
ああ。
アブサンは。
緑の妖精は。
知っていたのだ。
どんなに愛し合っても。
私が愛するのは阿武男くんであって。
アブサンではないことを。
私も知っていたのだ。
私を愛するのはアブサンであって。
阿武男くんではないことを。
でも。
私は。
弱い私は。
夢をみられず。
かといって現を受け入れられず。
だから。
私は。
アブサンは。
もう。
これ以上は。
無理だと。
限界だと。
悟って。
死を。
だから。
もう
終わりに。
ああ。
阿武男くん。
もし君がこの手紙を読んで。
少しでも。
私を憐れだと思ったのなら。
怖いと思ったのなら。
どうか。
私の墓に。
酒のアブサンを供えてくれないだろうか。
私は愚かな男だから。
もしかしたら。
死後の私が。
君に悪さをするかもしれないのだ。
生きている間は抑えられていた君への愛が。
抑えられなくなって。
呪いとなって。
君を殺すかもしれないのだ。
だから。
どうか。
墓に。
アブサンを。
アブサンがあれば。
きっと。
私が私を殺すことはあっても。
私が君を殺すことはないだろうから。
ね。
阿武男くん。
君のこれからに幸多からんことを。
愛しているよ。
君の先生の。
在男(あるお)より。
最初のコメントを投稿しよう!