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出会い
道場には、陽光がさしかかっていた。光の中、少年が木刀を振っている。
少年は後ろでまとめた長い髪をたなびかせており、彼が木刀を振るのに合わせてそれが揺れる。
全身が、光を纏って、輝いていた。
その姿を見て、惣平は美しいと思った。
そう思った自分が許せなかった。
「うん、筋のいい剣だ。癖も少ない」
惣平の師、榊が歯切れのいい声でそう言った。
「これならうちの流派にも問題なくなじめるだろう」
榊が上機嫌で続ける。
少年は木刀を納め、一礼をしてからその場で正座した。涼しい顔で背筋を伸ばして座っている。
門下生たちが正座して周りを囲み、新参者の様子を検めていた。惣平もそのうちのひとりだ。
「道場の皆に挨拶を」
榊にうながされ、少年が口を開く。
「清水恭二郎と申します」礼をして、少年は続ける。
「これより、こちらの道場にお世話になります。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
よどみなくそう言った。
惣平は気に入らない、と思った。殊勝なことを口にしているが、その目には人を頼む様子はまったくなかった。己のみを信じている目だ。
こいつは、俺たちに、自分が劣っている所はなにひとつないと思っている。
そう、惣平は直感した。
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