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清水恭二郎はその日より、惣平の道場の内弟子になった。
年は惣平と同じらしい。元々は隣町の道場で修行をしていたのだが、その道場より上の指導を求めて、この道場にきたということだ。
師範の榊が認めているので、ほかの弟子たちも、恭二郎をすんなりと受け入れた。恭二郎が新参者として謙虚に兄弟子たちに対して接していたことも大きい。
しかし、惣平だけは、最初に恭二郎に感じた傲慢さをぬぐいきれず、素直に彼を受け入れることができなかった。
ある日、練習を終えた惣平が水場で顔を洗っていると、恭二郎がやってきた。惣平の横で汗を拭いながらこちらを見ている。
水場が使いたいのかと思い場所を譲ったが、恭二郎はそのままなにも言わずこちらの様子を伺っている。
「なんだよ、何か用か」
沈黙に耐えかねて、惣平が尋ねた。
「おまえ、俺の真似ごとはやめろ」
前置きもなしに、恭二郎が言い放つ。
「あ……!?」
急に言われて、惣平はかっと血が上った。
「真似などしていねえ!」
「おまえに俺の振り方は合っていない。弱くなるだけだ」
惣平の言葉を意に介さず恭二郎が言う。
「なにを……!」
「本当のことだ」
惣平は、やはりこいつはこういうやつなのだ、と思った。他の弟子たちに対する態度など見せかけなのだと。
もうだめだ、我慢がならない。
「来い!」
惣平は恭二郎の手を取ろうとした、が、かわされて手が泳いだ。
「どこへ」
「道場だ!決まってんだろ!」
惣平はさらに興奮して言う。もはやほとんど怒鳴っている。
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