出会い

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 道場へ向かう惣平の後ろを、恭二郎も仕方ないといった風情(ふぜい)でついてきた。いちいち人の感情を逆撫でするやつだ。惣平は怒りの余り、全身が煮えるようになっている。頭どころか足先からさえ湯気が出そうだ。  なぜか師匠はこれまで二人を勝負させようとはしなかった。同じ年で、体格、実力も近しい二人は、練習相手にはもってこいだと思われるのだが、試合はおろか練習ですら立ち会ったことはない。そのことが余計に惣平をいらつかせていた。  この際だ、どっちが上かはっきりさせてやる。惣平はそう思った。  二人が道場へ向かっているかと、ばたばたと廊下を誰かがやってきた。 「ちょっと! 惣平、あんた、そんな血相変えて、どこいくつもり!?」  面倒な奴に見つかった、と惣平は思った。  師匠の娘の楓だ。大声を出したので聞きつけてきたのか。 「うるさい。見なかったことにして去れ」 「なっ……!」  楓は憤慨した様子で身じろぐ。  なにか言いたそうにその口を動かしたが、惣平の剣幕にそれ以上は言葉を継げず、その場で二人が通り過ぎるのをただ見ていた。  二人が渡り廊下へ消えると、楓はまたばたばたと音を立てて、もといた方向へと走って行った。  恭二郎は振り返って楓の様子を気にしている。 「師匠を呼びに行ったかも知れねえ。急ぐぞ」  恭二郎の背に向けて惣平が言った。  くるりと返すと二人は早足で道場へ進んだ。 「防具は?」恭二郎が聞く。 「必要ねえ」惣平が答える。  恭二郎は無言でうなずくと、惣平に続いて道場へ入った。
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