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「お父さん?ご飯にしようよ」
どれくらい経っただろう。
エプロン姿の光希がひょっこりと仏間に顔を出して、俺は慌てて盛大に鼻を啜った。
「んぁー!今日花粉が酷ぇな……鼻にクるわ」
「……お父さん、花粉症だったっけ?」
「知らねぇけど」
「ナニソレー!」
それから、リビングで二人向かい合って、光希が作ってくれた少し伸びたラーメンを食べる。
仏間の襖は、いつも敢えて開けたままだ。
猫舌の口でふうふうと一生懸命冷ましながら、麺を頬張る光希。
しっかりしてくれちゃって、まぁ……
俺は、光希の鼻の頭に飛んだスープを指で拭ってやった。
「今度の休み……水族館でも行くか」
「えっほんと!?やったぁー!!」
光希の喜ぶ顔を頬杖をついて眺めながら、俺は思った。
……まだまだ、そっちには行けそうにねーや。
愛してやまない女が、もう一人ここにいるんだから。
早希。お前なら、待っててくれるよな?
目頭の奥がツンとしてきて、
俺はまたそれを誤魔化すように眉間を擦る。
「あー……胡椒入れすぎたかな、目に染みるわ」
「……お父さん、胡椒入れてたっけ?」
「ん……?入れてねぇか」
「ナニソレッ!お父さんボケボケ過ぎ!」
ケタケタと笑う光希が眩しくて、
その顔が早希に瓜二つで、
俺は、もう一度鼻を豪快に啜り上げた。
Fin
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