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「じゃあ、一枚ちょーだい。便箋」
「いーよ。これしかないけどいい?
プリチャー☆ガールズのキラリちゃんのやつ」
「プリ……?あー何でもいいから」
光希が寄越した便箋は、縁取りにラメ加工が施されていて、ウインクしながらポーズをきめる水色の髪の女の子が描かれたものだった。
俺は苦笑いしながらも、光希の筆箱から鉛筆を拝借する。
「へぇ、ホントに書くんだ!
お父さん手紙とか書かないと思った」
「いや書いたことねーよ、実際」
そう。
手紙なんて、一度も書いたことがなかった。
もちろん、嫁に宛てても。
俺は二本目のビールに口をつけながら、便箋の一番上に『早希へ』と書いた。
自分で言うのもなんだけど、相変わらず汚ねぇ字……
なんでこんな手紙を書こうって思ったのか、自分でもよく分からない。
だけど、光希のストレートな言葉が並んだラブレターを目にしたら、何となくそんな気分になっただけだ。
あとは、まぁ……酒の勢い。
俺が書く手元を、じっと見つめてくる光希。
「だいすきだよ、は?書かないの?」
「ん?あぁー、書くよ、書く書く」
半ば自棄くそで、俺は手紙の最後に、
『大好き』と書き掛けた。
だけどふと手を止めて、
それを光希のピンク色の消しゴムで消した。
『愛してる』
俺がそう書き換えて鉛筆を置くと、光希は身を乗り出してその言葉を指差した。
「なに、してる?」
「あいしてる」
「どういう意味?」
「大好き、の最上級」
「さいじょ……?わかんない」
光希は眉をひそめて首を傾げた。
そりゃそうだよな。
ラブレターの意味も知らない子供が、愛してるの意味を知ってるわけがない。
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