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「おい、なんでそんな重いの持ってんの」
抱えていた段ボールが消え開けた視界の先に藤木が苦笑いを浮かべて私の代わりに段ボールを抱えていた。
「台車は?」
「借りに行ったら他に貸し出し中だって言われた」
「じゃあなんでそこら辺の男捕まえないの」
「え、と、持てるかな〜と」
「あほか」
爪折れるぞ。
藤木の視線が私の手に降りる。
「いっつも綺麗にしてんだから」
かろうじて女。
そんな私だけど、ネイルをするのは好きだ。
身体と同じで大きな爪に大きな手。
それを少しでも自分の目に入る時に綺麗であってほしい。
手や指に馴染む色を選び、シールやストーンは控えめに。サロンに通って何時間も座り続けるなんて冗談じゃない。全て自分で好きなようにやっていた。
ネイルを褒める男なんて遊び人だけ。
でもなまじ藤木という男を知ってしまってから言われてしまうと上手くはぐらかせなかった。
「そやって全員褒めてるの?」
「まさか」
ははっと笑った男は私が気合いを入れて持っていた段ボールを難なく運ぶ。
「爪なんかそうそう見てねーよ?」
スーツの逞しい背中があっけらかんと言ってのける。
じゃあなんで私の爪は見てるの?
いつもみたいに、揶揄うようにそう聞けば良かったのに、スーツの背中が照れているようで言葉を繋げなかった。
気の合う同僚。
それ以上の感情を藤木に感じたのはこの時が始まりだった。
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