くすぐったい距離

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「やっと思い出した?」 丹羽くんの声が二人だけのエレベーターの中に響く。 「なんで今まで黙ってたの!?体調は?あの後すぐ良くなったの!?」 「わぁ壁ドン、わーい」 エレベーターの壁に手を付き丹羽くんの背中を壁につけるほど詰め寄っていた。 「あ、ごめんなさい…」 慌てて距離を取った私を見た丹羽くんが声を上げて笑った。 エレベーターが七階についたことを告げ開いたドアから出た丹羽くんが先に出てドアを押さえる。 お礼を言って出た私を見た丹羽くんはいつもとは違う作ってない笑顔をしていた。 「俺はさーすぐ気付いたんだよ。あの日助けてくれた女神にさ」 「めっ、女神って大袈裟!」 「いーや?俺に当たるたくさんの足や舌打ちはあっても、大丈夫ですかって声をかけてくれたのも助けてくれたのも森田さんだけだった」 いつ来ても広報部は騒がしい。 いろんな人の声が聞こえてくるのに、丹羽くんの声は温度を持ってちゃんと聞こえた。 感謝の気持ちを込めたこの声を発する、これが本当の丹羽くんなら、この人はチャラくない。 「森田さん、近寄るなオーラ出してて声掛けられなくて。だから…遠回りしまくって余計警戒されて。何やってんだろって凹みまくったけど、最初から真っ直ぐ向かえば良かったかな」 首の後ろに回した手が照れ臭そうで、少し笑ってしまう。 「あの時は…本当にありがとう。遅くなってごめん」 胸に響く言葉は私まで嬉しくさせてくれる。 あの時の彼の正体がわかったことも、それが丹羽くんだったことも、心からのお礼の言葉もどれも素直に嬉しかった。 「良かった、元気になってて」 「あ。今の顔可愛い」 「は!?」 「も一回!さっきの顔も一回して」 「や、やだ!」 近づく丹羽くんの肩を押した時、丹羽くんを呼ぶ声がして丹羽くんと距離ができホッと息を吐いた。 「丹羽さん!広報部に用事ですか?」 「おー、佐和ちゃん。領収書のことでちょっとね」 知り合いいるじゃない、嘘つき。 私の視線に気付いた丹羽くんが長い人差し指を唇に当てて笑う。 チャラいの、チャラくないの、どっちなの! 少し近づけたような気がしたのは気のせいだった。 やっぱり丹羽くんはよくわからない。 さっきの女の子に腕を絡められて連れて行かれる丹羽くんの背中をただ見送った。
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