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ギリギリまで落とした照明の中に白いシーツが浮かび上がる。
シワのないシーツにゆっくりと身体を倒され息が止まった。
下から見上げる藤木は雄の顔をしている。
私で、私に触れることで雄になっている。
その事がさらに息を詰めさせた。
本来の二次会に向かう人達を横目に藤木が顔を寄せる。
「今デザートサービスがあるとこあるって。行っていい?」
デザートサービス?
首を傾げる私の手を引き、静かに二次会に向かう皆から離れる藤木。
普通の女性より大きな私の手を包み込むような大きな藤木の手。
「ふ、藤木、手…」
「繋ぐの嫌?」
こちらを向かずに聞こえた声は固く、藤木も同じように緊張しているのではと錯覚させる。
ひと呼吸空いて振り返る藤木に首を振ってみせると藤木が柔らかく笑った。
「じゃ繋いでていい?」
休みの前の夜はこんなに賑やかだったっけ。
駅から離れていく広い背中を繋がれた手を嫌というほど意識しながら付いていく。
会話のない私達、心臓の鼓動といつもより早い歩みの藤木に付いていくことで上がる呼吸。
町並みの喧騒がなければこの全てはきっと彼に聞かれていた。
「ここ、なんだけど」
藤木の声に繋がれた手を見つめていた視線を上げる。
きらびやかなネオンと暗い空間に浮かび上がる怪しげな建物名。
「えっ」
思わず声を上げた私の手がまた引かれる。
空いてる部屋のボタンを押し、出てきたキーを掴むと藤木は何も言わずエレベーターに乗り込みそのまま無言で右に流れていく階数のライトを見上げた。
「藤木、あの」
「うん、部屋で聞く」
握られた手に力が入る。
きっと慣れている。これまできっと何度も来たのだろう。
どうして来たの?
どうして私なの?
今繋いだ手が湿っているのはどうして?
あなたにとっても、もしかして私は特別なの?
胸の中で湧くように出てくる疑問は何一つ言葉として出てこなかった。
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