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「ジャケット、脱ごうか」
藤木の言葉に目を開けるとブラウスのボタンがもう3つ外されていて下着が覗いていた。
もう遅いとわかっていても手で合わせるようにブラウスを掴んだ。
「ごめん、なんか余裕なくて」
藤木が視線を外しながら呟く。
ギシリと音を立てるベッドから立ち上がった藤木が先にジャケットを脱ぐ。
会社で何度も見ている光景なのに、今見る光景はやけに淫らに感じ、藤木の背中から目を反らしてジャケットを脱いだ。
藤木は脱いだジャケットをバサリとベッドに投げ置くと、私の背中に回り、私の脱いだジャケットを受け取ってくれる。
自分のジャケットは襟を掴み粗暴に扱うのに、私のジャケットは肩を合わせ、ソファの背もたれに藤木のジャケットの上に重ねられた。
友人としてなら藤木の優しさにたくさん触れてきた。
今は違う。
今は一晩だけの彼女として藤木の特別な優しさに触れている。
それがとても嬉しくて、同時に過去にどれだけの女性が特別な優しさを受けていたのかを想像して嫉妬していた。
今夜だけ、今夜だけ。
そう何度も何度も言い聞かせる。
「芽依…怖い?」
ベッドに戻ってきた藤木が腰を下ろし静かに尋ねる。
「もしかして、初めて?」
開けられたブラウスの前を掴んだまま小さく首を振ると藤木の手が髪を撫で、そのまま引き寄せ、藤木の胸に抱かれた。
「でも慣れてない?」
「ん…」
「久しぶり、なのもある?」
「うん…」
そっかと呟いた藤木が前髪の上から額にキスをした。
「怖いとか嫌だとか、ちゃんと言って。止めるから。あと…」
薄いブラウスは簡単に彼の熱まで伝える。
腕に触れる彼の手はとても熱かった。
「気持ち良かったら、それもちゃんと言って」
私の答えを聞く前に藤木は背中を支えながら私を寝かせる。
鼻先を合わせるほど顔を寄せ、藤木が小さな声で聞いた。
いい?
耳にまで届く激しい鼓動に泣きそうで逃げ出したい。
それでもこの腕の中にいたい。
藤木の問いにまた小さく頷いた。
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