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窓には黒幕のかかったような電車に一人乗っていて、前向きなアイデアなんて思いつくはずもなく、家へ帰るまで、私はやっぱり不貞腐れるしかありませんでした。
なんで作家になりたかったんだっけな。
幼馴染と舞台に立つ夢を叶えるため?
自分の作品を佐野さんに演じてもらうため?
けれどそんな夢はどれも、自分以外の誰かに依存して成り立っているにすぎません。
私は知っています。
彼女が夢を叶えた時には、いつかのように軽々しく頼み事なんかできなくなる。
もしも私が、何かの手違いで、世間に名の知れるような作家になったとしても、きっとその頃には佐野さんはいない。
本当は、夢と偽って、逃げ道を作っていただけなのかもしれません。
彼女が夢を叶えてしまったら、佐野さんが死んでしまったら、私にとって創作を続ける理由はなくなるから。
じゃあ、本当は、創作なんて辞めたいんじゃないか。
でも、今までなんにもなかった自分が、狭い狭い世界で出遅れてしまった自分が、与えられた環境ではなく、やっと自分で見つけることのできたこの縁を失いたくないのです。ここへ導いてくれたのは、拙く微かでも、自分の想像力があったお陰なんだと信じたかったのです。
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