54人が本棚に入れています
本棚に追加
172粒目:経験を書くということ
一年前に書いた長編を、せっせと推敲作業中。
主人公が憧れの人物に会うシーン。
言うまでもなく、私の人生を狂わせた彼を投影しているわけで。
***
「こ、こんにちは……」
ぎこちない挨拶は、果たして彼に届いただろうか。
彼は僕を見て、「ああ、」と口角を上げた。
「また来てくれたんだね」
「……ぅ」
思わず、小さな嗚咽が出た。憧れの人が僕を認知しているという事実を、脳が処理できていない。
***
(え? これだけ? なんか思ったよりあっさりしてるな……)
しかしよく考えると、当時はまだ佐野さんに認知されていなかった頃で、想像で書いたシーンでした。
ですが今は、今年4月に起こったアップリンク吉祥寺での一件があります。それを思い返せば、もっとリアルに描けると思いました。
***
思わず小さな嗚咽が出た。
彼は僕なんかより、ずっとずっと長く生きてきた人だ。多くの経験とそれに伴って生まれた感情が、彼の脳にはびっしり刻み込まれているはずだ。これから先たくさんの出会いがあっても、それは彼の経験則に当てはめられ、新しいものとして記憶していくことは少ないだろう。
そんな中でも、彼は僕のことを覚えていてくれた。彼の脳に刻まれた皺は、新しく刻み込まれるほどの場所を有していないだろうに、新鮮な出来事として刻まれることはもう少ないだろうに、きっと目に見えぬような短さだろうけど、僕のことが、確かに刻み込まれている――!
***
(いやあ~~~長いか……鬱陶しいな……)
確かにこのシーンは、今後の展開にも関わる重要なポイントだから、主人公にとってどれだけ劇的な出来事かを表すことは大切だけども、これでは少し全体のテーマからはみ出すというか、明らかにテンションが異質です。
(やっぱり前のままくらいがちょうどいいか……)
最早この描写だと、主人公の姿というより、私のリアルな姿なわけで。
(これは流石に……気持ち悪いものなあ……脳って……)
こういう行き過ぎた書き癖は、『ずっとあなたが好きだ!』シリーズに取っておくことにします。
今年は去年とは比べ物にならないほどの参戦歴。あまりの数に、執筆が追い付いていないほど。
年末のお供に、是非お楽しみに(いらんいらん)。
最初のコメントを投稿しよう!