174粒目:下北沢にて○○○○と

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 もう少し会場の雰囲気を噛み締めたいところでしたが、スズナリは小さな劇場。「ご用がお済の方は速やかに……」とスタッフが促します。 (帰る前にトイレ寄ってこかな……)  余韻に浸りながら、ゆっくり客席を出て、トイレの方を見上げると、長蛇の列ができていました。 (なんだ、並んでんのか……あっ!?)  その列は、確かにトイレの方へと続いていましたが、中へ入って行く影はなく、奥で固まっています。その人ごみの中に、佐野さんのお姿が見えました。どうやら、舞台袖か楽屋か、そこと繋がっていたようなのです。今日は千穐楽、お客さんは、佐野さんと話したりサインを貰ったり写真を撮ったりと、それで集まっていたようでした。 (うわあ、なんだよ、いいなあ……でも、結構並んでるしな……)  なんだかその時は、佐野さんの所へ行くのが憚れたのでした。 (今回はいいか……)  妙な恥ずかしさがあったのです。こんな若い奴がいて冷やかしだと思われたら迷惑だし、もしも佐野さんが私のことを覚えていて、また来たのかこいつ、と思われていたらどうしよう、なんて、よく分からない心配をしていたのです。  アップリンク吉祥寺でついついでしゃばったことをしてしまったような気がしていたので(※「165粒目:二年の軌跡」参照。)、なんとなく佐野さんを遠目に拝むだけにして、劇場を後にしました。  この時の選択が、思いもよらぬ出会いを引き起こすことになるとは……。
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