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眠れないのか、光輝が私を強く抱き締めたまま、こう言った。
「綺麗な月、だな」
カーテンが開いた窓の向こうの秋の夜長の名月を、彼と眺める。
「うん」
「こうして、あかりといつまでも見られるといいな」
「うん」
「この先ずっと、十年二十年、もっとずっと先まで」
「お爺ちゃんお婆ちゃんになってからも?」
「ん、そう。どっちかが死ぬまで、ずっとあかりと綺麗な月を見たい。それまで、俺とずっと一緒にいてくれる?」
これが、光輝のプロポーズだった。
真夜中で、ベッドの上で微睡みの中で、ルームウェアで、指輪は無くて。
でも、私には月明かりだけで充分だった。
夜で、高級レストランや夜景が綺麗な場所で、スーツやワンピースで、指輪があるというシチュエーションじゃなくても、全然。
「プロポーズ?」
その時の私は、どこかまだ信じられなくてそう訊いてしまう。
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