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近くのファミレスに駐車する際、入口から詩織が迎えに出てきた。
「ごめんね遅くなって」
会社には身内のトラブルという事で早上がりをしたせいでスーツ姿のまま立ち会った。詩織は前に会った時よりも遥かに肉が削がれ、目の奥は明野ではなくどこか別の方向を捉えているように思えた。〈重症だな〉、と心の中で呟いた。
「行こう」と詩織を促し店内へ入る。大学生風の若者が数人居るだけで他は空いていた。迷わず奥の席へ座った。
「僕が壁側に座るよ。詩織ちゃんは入口に背を向けて座って」
「ありがとうございます」とお辞儀をしたあと静かに腰を下ろした詩織は、改めて見ると別人のように変わってしまっていた。化粧はしておらず、目元には隈が出来ていて唇は乾燥している。髪の毛も伸び切っていて、ズボラな明野でさえ切った方が良いと思った。身内びいきを加えても、そこには不健康な女の子以外の印象は掴めなかった。これも壊れてしまった宮内家の内情のせいだと思うと胸が痛んだ。オレンジジュースが届くと成人女性の風貌はたちまち消え去り、まだまだあどけなさが渦巻いている。
「それでさっきの話なんだけど」
「はい。すみません、わざわざ来ていただいて」
「うん、いいよ大丈夫だから。もう一度聞かせてくれないかな」
録音しようとボイスレコーダーを持ってきた筈だったが、どうやら車の中へ忘れてしまったらしい。「忘れ物ですか?」と詩織に気を遣われ明野は恥じ入って仕切り直す。慌てる明野に心のネジが緩んだのか、詩織の頰が少し綻んでいるように見えた。気のせいじゃなければ良いと明野は思った。
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