17人が本棚に入れています
本棚に追加
「数年前からお母さんの様子がおかしくなりました。私のする事なす事に何かと文句をつけるようになって」
「それから暴力を振るうようになったんです。初めはお父さんは庇ってくれたんですが、しだいにお父さんも私を邪魔者扱いするようになって、この前リビングで本を落としたときに〈使えない腕なら切ったらいい〉とお母さんに包丁を突き出されました」
メモを取りながら明野は耳を傾けていた。さっきのショックは幾分のど元を通り過ぎてはいたが、〈殺されるかもしれない〉その言葉に一括りされた背景を解きほぐすと、やはり精神的苦痛を感じざるを得なかった。話し終えた詩織の表情は晴れることはなく、むしろ氷山の一角を伝えただけで〈もっと沢山言いたい事がある〉と言いたげだった。
明野は〈文句をつける〉〈暴力をふるわれる〉〈しだいに父も加担〉この三つをぐるぐる黒インクで囲った。
「清美に文句を言われだしたのはいつ頃かな?そしてこの二つも、時期を教えてくれるかな」
ボールペンで指しながら優しくたずねた。三年前ほどから始まって、暴力を振るわれたのと父の加担は昨年からだと詩織は言った。昨年…。明野も心当たりが無いわけではなかったが、宮内家とは平行線の事態だったと結論付けて後回しにした。
「三年前という事は、二年ぐらい前の正月、僕のところへ遊びに来てくれた頃はもう始まってたの?」
この三年の間、明野が詩織や清美と接触したのは二年前の正月だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!