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行き場のない恋
彼女は毎日手紙を書いた。
好きな人がいるのだと言っていた。
母親は彼女の好みそうな、淡いパステルカラーのレターセットを買ってきては、ペンを走らせるその横顔を微笑ましそうに眺めていた。
「先生は好きな人いないの?」
「昔はいたけど、この仕事をはじめてから、すっかりいなくなってしまったんだ」
「……好きな人は、いなくなっても好きじゃあないの?」
彼女は純な瞳をして言った。
私は白衣のポケットの中に放り込んだままの十字架を握りしめたまま、ついには答えられなかった。
「私はたぶん、ずうっと好きよ」
彼女が死んだのは5月の頃であった。
その頃には、書き溜めた手紙が病室の紙袋に山盛りになっていて、私は去り際の母親に思わず尋ねた。
「なぜ手紙を出さないんです? 彼女には想い人がいたのでしょう?」
「先生は神様の住所を御存知で?」
新緑の季節がやって来ていた。生命の蔓延る窓の外では、青い空がどこまでも広がり、純白の雲がどこかぽっかりと浮かんでいる。
「いいえ。出て行かれてからは、それきり存じ上げません」
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