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「盗賊がまた出たってよー?」
「あんた襲われるんじゃない?」
「騎士様が何とかしてくれるわよ」
キャッキャッと騒ぐそれらの会話を聞き続ける。
(もう察知したのか。早いな)
一般人の情報など真実かどうかすら定かでは無いと言えるほどに信憑性と正確さは無いがクルテはそれで良かった。
雲行きも怪しくなり始めている。先程まで快晴だったかのように思えたが雲が寄り集まり雨はすぐに振るだろう。
盗賊はシバいてもシバいても出てくる。
大元を狙いたいというのが騎士サマの方針で、おおよそその大元だと検討をつけているのがこの国で名を出したとして最も恐れられる組織、「無色」という組織だ。
その悪行は実しやかに囁かれてはいるが表立って外に出た事は無く裏を操る最大の組織で、国は全力で洗い出そうとしているが未だ尻尾を掴めない、というのが一般人の認識だ。
「あぁ、だから騎士様達が明日の早朝ーーー」
そこまで聞くと身を翻し歩いていく。これで十分だった。
他にもクルテと同じ事、つまり雨を心配したのか通行人の流れが先程よりも少し変わる。
少しづつ薄暗くなっていく空を見上げため息をつく。
ポツ、ポツ、と地面に丸く黒い染みを作っていく最悪の空模様に、貧民街の端の木の下に座り込む。
雨は、嫌いだった。
薄暗いのも、じめじめとした空気も、体を重く冷たく変化させていく雲の涙も。
全て親を失ったあの日を思い出す要素で出来ていて好きにはなれなかった。
フードを取る。
その風貌はフードを被っていて不気味だった先程までとは違い、可愛いと分類されるそれだろう。
柔らかそうな白髪に黒いくりくりとした瞳。
当然男性ではあるし女に間違われることも殆ど無いがそれを言われる事も多く少しかっこよくなりたいとは思う。が、無理だろうと仲間内でははやし立てられる。
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