私の才を月が照らす

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家と家族が引越しをしていた。 マツリ・ユーファンが団子屋の手伝いに行って帰宅した夕暮れ時、そこには慣れ親しんだ家はなく、跡地となっていた。 新緑豊かな森住まいのユーファンは、確かに街へ行くのに半日掛かるという立地条件ではあるものの、この土地がたいへん気に入っていた。 自然は良い。人間の手によって生み出されたものが我が家のみという、だからこそ風の音も動物の悲鳴も、土地神の声もはっきりと聞き取れた。 「……あーあー、問い合わせできるかな」 ユーファンの不在時に家族が家ごと消えたということは、それ相応の理由があったから他ならない。 赤色の土にしゃがみ込み、両手で触れる。 齢十三にして魔力のカケラも持ち合わせていないユーファンは、このカタジステント国では、希少であった。 魔術師が世界の九十七パーセントを占めているのだ。彼らは、互いの思考を読んで他者を陥れることも容易く行うが、同時にそれを防ぐ為の術式を編み出した。 意思疎通を好まない人々は、自らが考えた生き易い生き様を、より力が弱いものへと、高額な代金で売りつけることを選んだ。 金が払えない貧困層には、動植物との関係を良好に維持出来る者が多かった。 彼らは、力ある魔術師たちが、口に入れるものへと呪いを込めた。 友人であった筈の自然に生きるものたちを、不幸へと誘う食材の媒介として使用したのだ。 なんだって世界は負の連鎖を喜んで、率先して行うのだろうか。 ユーファンは、魔力を持たないことを心から喜んだ。 醜い人間たちを見ているのは、もう慣れたことだが、それでも客観的な位置から物事を把握できるのは、自分が持たざるものだからだろう。 実の両親の顔は、既に記憶から抹消している。 棄てられたのだ。 人里から離れたこの弔いの森に、齢六歳にて独りユーファンが移り住んだのは、持たざるものだったからだ。
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