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ここに、もうひとつ俺が動いた大きな理由がある。それを今から、このせっかちなオッサンに説明してやらないといけない。
本当は、これを言うのは俺にとってはとても辛いことなのだけれど。
「あのさー、ついでにもうひとつ言うと。
俺の父さん、洸の兄さんのことだけどな。俺、一回も会ったことないんだよ…洸が家に住むようになってからも勿論、それまでも一回も。
で、何が言いたいのかというと。
あれからアイツら仲間も、すぐに実家に手を出すのは止めたみたい。
もう何の音沙汰もないよ。
俺、一回も会ったことないから知らないけど、洸やばあちゃんの話を聞くに、きっと父ちゃん《ソイツ》、きっと身体張って止めてくれたんじゃねえのかな_____」
そうさ、案外、俺を自分の戸籍に入れたのだって、俺を生むのに困ってた俺の母ちゃんを、後先考えずに助けようとした結果なんじゃないだろうか。
まさかその後、女が子どもをばあちゃんやじいちゃんに押し付けて逃げるなんてこと、つゆほども考えないで。
短絡的な正義感だけで動く、単純な男。
ま、顔も知らないやつだから、俺の勝手な解釈だけど。
それでも、2年前、洸が東京の会社を辞め、オッサンと別れることになった理由は、父さん《ソイツ》のせいだ。
でも今なら_____
洸が口を閉ざしてしまった以上、その呪縛から、ふたりを解放してやれるのは俺だけだ。
ふとした感傷に襲われつつも、俺は言葉を続けた。
「だから_____
だからさ、例えあんたがもし、洸と一緒になろうとしても。多分もう、それを止めるものはないんだ。勿論、あんたが社長を辞める必要も」
ともすれば泣いてしまいそうで、俺は唇をぎゅっと引き結んだ。
「ボウズ…幸太…お前…
な…んでだよ…何で…そんなに…」
「…あ?ばっ、こら、何すんだよ、やめろ気持ち悪いっ」
おいおい、何でここで、オッサンが泣き出すんだ!?
もうこいつ、混乱ぐあいがかなり進行してきたみたいだな。
俺を可哀想だとでも思ったのか、無意識に俺のボウズ頭をしきりに撫で回し、あろうことか、目を真っ赤にして泣いている。
男が泣くなよ、みっともねえ。
ってか、頭にハナミズつけるのだけは止めろや!
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